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21話(5) #
べつに怒ってないし。それに本気で言ってた訳じゃないし。分かってるし、睦月さんがそんなつもりじゃないことも。だけど、えっちに誘ったのに断られたようなダメージを受けた。
精神的大ダメージ。効果は抜群だ。だが、色々な経験を積み、耐久性がついたのか、HPは残った。当たり障りなく『大丈夫ですよ、気にしてません』感は出してきたつもり。
このまま私がライフを回復して、夕飯時に佐野家へ戻れば万事解決だと思われる。睦月さんだって、私に気持ちを伝えてきたし。それを私は受け止めた。会話は成立している。
大丈夫。問題ない。
特に行く当てもなく、ぷらぷらと歩く。日は沈み、日中ほどの暑さは感じない。夜風は少し気持ちが良い。
「んーーどこ行こう?」
どこかへ行く必要性は特にない。折角1人で出てきたのだから、この時間を楽しみたい。う~~ん。友達とか特に居ないしな。うわぁ寂し。
ーー皐以外の元恋人。
頭にそのワードが思い浮かぶ。付き合うと割と長く続くタイプ。まぁ、恋人になったら、即同棲を繰り返す私の恋愛遍歴なんて、聞いたらドン引きされることは間違いない。
そして、必ずしも恋人に自分のセクシュアルマイノリティを打ち明けてきた訳ではない。自分のことを分かってもらえそうな人のみ。
皐とはまぁ色々あったけど、馬が合い、居心地の良い関係を築けた。私がどんな相手を好むのかとか、そんなことを気にするような女ではなかったから、自分のセクシュアルマイノリティは、はっきりとは話していない。
でもその皐にも晴れて恋人が。やっぱり結婚……するのかな。気軽に会えたはずなのに、気を遣い、距離がどんどん離れていく。
睦月さんにはスマホで写真を見られてしまったが私のことを良く知る人物はあと1人いる。皐を除く、睦月以外の理解者。
気がつけば、その人物の家の前まで来ていた。あぁ、やだやだ。こんなところまで来ちゃって。大体、皐の前に付き合っていたんだから、もう何十年前の話? 数えられないや。
なんでも相談出来る睦月と旭の友人関係が羨ましくなった部分もある。それでも別れてるし、今更でしかない。浮気はするつもりはない。帰ろう。
「はぁ……」
「如月く~~ん」
今名前呼ばれなかった? 来た道を戻る足を止め、振り返る。窓から身を乗り出し、手を振る懐かしい人の姿があった。
「なんでこんなところに居るの?」
「久しぶり、千早 。なんででしょうね。まだ住んで居たのですね」
「君は相変わらずだね。あはは、一応ね。盆休みには実家に帰るよ」
相変わらずなのは貴方も同じだろうに。童顔で、綺麗な顔立ち。同い年とは思えない。柔らかくて、可愛らしい雰囲気。
「ご飯、食べた?」
「まだですね。でも、作って待ってる人が居るから帰らないと」
もう少し話したい気もする。
「恋人が居るんだ。それは大切にしないと。今度ゆっくり話そうよ、本とか読みながら」
千早が微笑み、私も笑みが溢れた。
「そうですね。また連絡します。会えて良かった」
窓の向こうにいる千早に軽く手を振り、また歩き始めた。少し良いことがあった気分。千早とブックカフェへ行こう。楽しみだなぁ。話しながら、本を読んで、まったりする。いいなぁ。
佐野家に着いて思い出す。あ、睦月さんと変な感じになってたんだっけ? まぁ、大丈夫でしょ。千早に会ったことで私のライフは全回復した。平気平気。
ドアノブに手をかけて、家の中に入った。
「遅くなりましたーー……え?」
お出迎えしてくれた、睦月の変わりように困惑する。
ーー時は戻り、30分前 佐野家
「やっぱり帰ってきたらちゃんと謝ろう!!!」
おたまを握る手に力が入る。
「別に怒ってなかったことね? 謝る必要あるの?」
「分かんないじゃん、そんなの~~真剣に向き合って、謝らないと伝わらない気がする!」
「そういうところが重いんじゃないの?」え?
「重いとは……」
握っていたおたまが手から滑り落ち、鍋へ入った。
「逃げたくなるっていうかぁ~~もっとフランクにねこみみ付けて『ごめんにゃさいっ』て言っときゃ良いんじゃない」
卯月から先程のカチューシャを手渡され、なんとなく、受け取ってしまう。ねこみみで謝る? ケンカはしていない。少しの誤解。
これを付けて『ごめんにゃさいっ! 仲良くしてね』って言った方が、にゃんにゃん猫プレイはしないけど、いちゃいちゃはしますよ感は伝わるということか!! アリだな!!! おけ!!! やろう!!! そうしよう!!!!
睦月はねこみみカチューシャを装備し、士気が上がった。
ーー30分後
「遅くなりましたーー……え?」
玄関へ入り、目の前に立っているのはねこみみを付けた睦月さん。いや、えっと。どういうこと? かわいいけど。
「……如月おかえり」
「た、ただいま」
恥ずかしいのか、目が合わない。つっこむべきか? スルーするべきか?
スルーはないな。意図的に付けているのは間違いない。何を言っていいかわからず、睦月の様子を窺う。
「あ……えっとぉ……その…俺……如月となら…えっと……」
「う、うん?」どきどき。
す、すごく恥じらっている!!! そんなもじもじして、頬を赤く染めて、何?! まさか!!!『如月とならぁ……にゃんにゃん猫プレイしてもいいよ(照恥)』ってことですか?!?!
目をしっかり見開いて、睦月を見る。
「き、如月?」おどおどしている。
「それは、そういう意味……?」どきどきどきどき。
「えっ? その……え~~っと…やっぱり如月と仲良くしたいというか……」
如月と仲良くシたい?!?! ねこみみで?!?! はぁああぁぁああっ!! そんなっ!!! 睦月さんから?!?! 定まらない焦点で顔赤らめて言うとか!!! そんなに私とにゃんにゃん猫プレイをシたい?!?!
にゃんにゃん猫プレイの概要なんて全く決めてなかったけど!! ちょっと押し倒して、睦月さんを猫吸いして、はぁはぁするだけのつもりだったけど!! 予定変更!!!
睦月さんを私に甘えさせ、猫の如く可愛がり、愛でる!!! これぞ、にゃんにゃん猫プレイ!!! やろう!!! 今すぐ!!! 睦月さんが私を求めているうちに!!!
「そんな……睦月さんの方からにゃんにゃん猫プレイをしたいなんて……」あぁ! 幸せ!
「え? えっ? 俺そんなこと言ってな……え? あ」
ーー睦月は自分の発言が誤解を招いたことを理解した。
「あ、いや、違う!! そういう意味じゃ……えっと……その…あ!! そうだ!! ごめんにゃさいっ!!!」
首を傾け、両手を合わせ、如月に謝った。
「もう始まってるというのかぁあああぁぁああぁあ!!!!!」ずきゅん。
「なんでそうなるの!!!!」
睦月は頭を抱えた。
「はぁはぁ……いいよ。睦月さんが望むならここでシても……かわいいなぁ……もう…はぁ…はぁ……ほらおいで」
廊下に膝をつき、両腕を広げ、受け入れウェルカム体制を取る。もう、笑みが止まらない。さぁ、かもん!!
「いや、ちょ……待って……アレ? えっ? どういう状況? 行っても大丈夫なやつ? 如月、俺、シ…シないよ?」
睦月は訝しみながら、如月に近づいた。
「……ふふ…やだぁ~~自分から誘ったんじゃない~~にゃんにゃん猫プレイ」
警戒してる。警戒を解いて甘えさせなきゃ!
「いや、誘ってな……」中々近づいて来ない。
「ぇえ? そうなの? 残念だなぁ~~ハグもしないの?」もう少し待ってみる。
「それはするけどぉ……」きたきたきた!!
ぎゅ。腕の中にきた睦月を抱きしめた。
「んふ…はぁはぁ…ねこげっと……ふ…ねこみみかわゆ…ん」
ねこみみ可愛すぎて、悶える。はぁ、耳甘噛みしよ。ぱく。
「えっ、これ、罠ぁ?! あっ…ちょっ……あっ」
ふふ。頬赤くなってる。戸惑ってるくせに委ねてくるのかわいい。
「ふふっねこちゃ~~んっ…ここかなぁ?」
「ぁあっ…なにちょっとっ…やめてっ」
Tシャツの下に手を入れ、胸の突起を弾く。肩がビクってなった。よき。
「にゃあはぁ? あれ? 気持ちいいとこ違ったのかなぁ? こうだったかなぁ?」突起をつまむ。
「あっやっ…だめだって! しかもここ廊下! 卯月もいる! あっっ」
本気で嫌がってはないなぁ。
「にゃあはぁ? にゃあって言わないとやめない~~」
「あっやめてっ…えっと…にゃあ?」
ハーフパンツの中に手を入れ、前の方を触ると、睦月は頬を赤らめた。
なっ。ねこみみ、赤い頬、困り顔、にゃあ!! かわいいーーーー!!!! もっと欲しい!!!
下着の中に手を入れ、直に触れていく。
「ちょっ…あっ…んっやめっ…にゃあ言ったらやめるんじゃっ…あっ…ぁあっ」
腕の中でビクビクしている。愛し。
「にゃあが足りません」
少し早めに手を動かす。
「えっ? ぁっ…あっ…にゃあ? んっ…ぁあっ…やめっ…にゃあ…? 如月…にゃあ言ってるよ? っん…」
背中にある睦月の手に少し力が入っているのが分かる。感じてる。
「んーー。違う。疑問系のにゃあは頂けません!!」
手の動きを更に早め、促す。
「ぇえっ…にゃっ…にゃあっ…あっ…だめっにゃ…ぁっあっ…んっ…やっ…やめてにゃ…ぁっ…っん…いっちゃうにゃぁっ……あぁっ」
ちょっ。顔めっちゃ赤いし、目もとろんとしてる!! 腕の中で震えちゃって、やだかわいい!!! もうお腹いっぱい!! ごちそうさまでした!!!
でも胃の方はお腹が空いてきた。誠に勝手ながら、下着から手を抜く。お預け。
「先にご飯食べたい」
唇を重ね、抱きしめている腕を緩ませる。お腹空いた。
「このタイミングで?! ちょっとぉ~~あと少しだったぁ~~」
睦月が名残惜しそうにしているのをみて、口元に笑みが溢れる。
「はい、仲直り」
腕の中の睦月と目線を合わせ、ニコッと笑う。睦月も同じようにニコッと笑った。ふふ。これでいい。
「ご飯の準備するね」
睦月は立ち上がり、キッチンへ向かった。
「あ」
スマホを見る。着信一件。柊木千早 。どうしよ。言いづらい。元恋人と会いたいなんて。でも約束してしまった。結構軽率な行動だ。隠し通す訳にはいかない。言おう。
「睦月さん」
味噌汁をおたまで混ぜる睦月に声をかける。
「どうしたの?」
「ぇ~~っと、元彼に会いたい」
からん、から~~ん
睦月の持っていたおたまが床に落ちた。
「あ、えっと……今は友達です?」
これじゃダメだ!!
「なんで……俺以外の人と会おうとするのぉ~~」
睦月をそっと抱きしめる。束縛が少し気になる。まぁ、良いんだけど。それだけ愛があるってことだと思っておく。
「久しぶりに再会して。ダメ?」
「ダメ」くっ。
「そ、そう……」黙って会おう。
「企んでる顔してる。陰で絶対会わないで!!!」うっ。
「は、はぁい」
どうしよっかなぁ~~。
「ん」
睦月の額に軽くキスして、抱きしめている腕を離す。
「本当に分かってるの?! なんか誤魔化してない?!」
不安気な顔をしている。
「むしろ信じてくださいよ。私が睦月さん以外の誰かに惹かれるとでも?」
睦月の目を見つめた。
「そうゆうんじゃないけどぉ……うぅん……」
束縛したくなるほど、無意識に、不安にさせるようなことしてるのかな。うーん。ちょっと見つめ直さなきゃ。
「ほら、卯月さんもお腹空かせて待ってますよ。ご飯食べたらお楽しみもあるし、早く食べましょ」
心配する睦月に笑いかける。
「うん……でも……にゃんにゃん猫プレイはしない……」
「えっ?」
睦月は忘れかけていた、ねこみみカチューシャを外し、引き出しの奥へ固く封印したのであった。
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