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22話(2)
如月今何やってるかな……。祖母の家に着いたはいいが、なんとなく無気力。何もする気が起きない。畳に寝転がり、スマホを眺める。メールの返事こないし……。
「お兄ちゃん! ご飯の準備手伝って!!」卯月が呼びにきた。
「たまには卯月がやればいいじゃん……休ませて」心が折れかけである。
「もーー!! 気に病んでも仕方ないでしょ!! あーしないと更に悪くなる状況だったんだから!!」うぅ。
「それでも如月の立場考えると病む~~」ごろごろ畳の上を転がる。
「うっとおし!!」卯月はキッチンへと戻っていった。
ポン
着信音した!! スマホを見る。来てない。俺じゃないし。畳の上に置かれた卯月のスマホを手に取る。通知が来ている。如月からだ。俺にはメール来てないのに。写真? 気になる。見たい。
開けたら既読付いちゃう。でも見たい。見ちゃお。ロック画面を解除し、メールを開く。如月をタップ。なんの写真かなぁ?
如月と男のツーショット。
は。誰コイツ。思わず顔が歪む。あれ、でも見たことある気がする。どこでみたっけ。あ! 新幹線で如月のスマホで見た男に似てる!!
え? 何? なんで如月と一緒に映ってんの? なに肩に手乗せてピースとかしてるの? ここ、如月の実家? だよね? なんでいるの? しかもなんか楽しそう!!! 俺以外の誰かとこんなに親しくして、腹立つ!!!
「お兄ちゃーーあーーっ!! 何、ひとのスマホ見てるの!! きも!!」見ている途中で卯月にスマホを取られた。
「何あの写真……」モヤモヤする。
「あぁ、なんか元カレが来てるっていうから、写真送ってもらった~~」卯月は如月と男のツーショット写真を見つめた。
「どういう状況……なんで家に元カレ来るの……」あぁ~~っモヤモヤする!
「如月の元カレって可愛いね~~本当に37? やばぁ」写真を大きく広げ、見せつけてくる。
「詳しいね……」返事の来ない自分のスマホに目線を落とす。
「恋バナするも~~ん。如月が初めて付き合った人だよ」初めて……。
「もっと情報をくれ」体を起こし、卯月の前に座った。
「……如月が初めてえっちした人」卯月は口元に手を当て、ぷっと笑った。
「はぁあぁあぁあぁあ?! 何その情報!!」気になり過ぎて目をカッと見開く。そんなの知らない!!
「知らないの~~? 千早さんって言うんだよ? 如月の初めては全て千早さんだよ」意地悪く笑っている。
「そ、そんな人と今一緒にいるの?!?! 実家に?! なんで?! 大丈夫なの?!」軽くパニックだ。卯月の肩を手で掴み、揺らす。
「それは知らんけど。何か思い出すものはあるんじゃない? あっ、えっちしてたりしてぇ~~」肩を揺らされながら、恐ろしいことを言っている。
「えっ!!! き、如月が?! 元カレと?!?! えっち?!?!」揺らしている手を止め、頭を抑える。絶対嫌だ!! 卯月は手でねこみみを作り、頭に添え、口を開いた。
「『かわいいね、千早…はぁはぁ…にゃあって言ってよ…はぁはぁ』『あっ…弥生っ気持ちいにゃぁっ』って」アレ? にゃんにゃん猫プレイ……?
「ま、待て……何故ねこ……」まさかまさか……。頬が赤くなる。
「え? 普段は、きもって思うけど、アレはちょっと良かったぁ~~」なっ。
「見てたの?! えっ!! 見てたの?!」
「遠目で。お風呂の時も声、聴いてますけど」何か思い出したように卯月の顔が赤くなった。
「はぁああぁあぁあぁあ?!?! 見るか?! 普通見るか?! 兄の情事を見るなぁあぁああぁ!!! ぁああぁあぁあぁあ!!!」睦月は頭を抱え、ゴロゴロ畳に転がった。
「大丈夫だって~~乱れてるお兄ちゃんは最高だよ」卯月の目がうっとりしている。
「どういう意味?! やだっ!! 何その目!! 腐った目で見ないで!! やめて!!!」腕を伸ばし、卯月の顔に手のひらをつける。
「やめろし!!! なにすんの!!! きも!! うざ!!!」引き剥がされそうになる手のひらに力を入れ、卯月の顔にくっつける。
「ご飯だよ」祖母の声が聞こえた。
卯月と取っ組み合いながらリビングへ向かう。その様子をみて、祖母が「ケンカはダメだよ」と不安そうにした。祖母の方を卯月と一緒に見て、同時に答える。
「「超絶仲良しだわ!!!」」
卯月と顔を見合わせ、笑った。
まぁ、如月が自分で『俺以外の誰かに惹かれない』と言っていた以上、俺は如月を信じる。疑うより、信じよう。
そして、明日は絶対に如月の家へ行こう。
*
「すごいご馳走ですね、本当に僕が食べちゃっても良いんですか?」千早は少し引き気味で小春に訊いた。
「あ~~いいのいいの、来なかったやつが悪い」小春は箸で寿司を取り、口に運んだ。
なんだか、食卓はやけ酒ムードが漂っている。机の上には予約して買ったであろう、高級寿司が広げられている。
「お寿司、凄く美味しいです」控えめに食べる千早の姿を見ると、睦月の力強さを感じる。
「これ、睦月さんのために買ったの?」母に訊く。
「そうだよ~~。恋人を連れてくるって聞いてたから。無駄になった。明日来ても寿司は用意しない」腹立しいのか、ビールを一気に飲んでいる。
「あはは……」
(睦月さん大丈夫かな……)
用意された寿司はあっという間になくなった。「ご馳走になったので」と、ゴミをまとめたり、洗い物をしたり、率先して片付けを手伝う千早をソファに座って眺める。
「あんたはほんと、何もやらないな!! 千早ちゃんは偉いな!」小春が食いかかってくる。
「ぇえ? なんで私が……」だって面倒くさいし。
「小春さん、お母さん、終わりました」千早は洗った手を拭きながら、リビングへ戻ってきた。
「ありがとうね~~」なんか千早が家族に囲まれてる。馴染んでおる。
「お風呂沸いたよ、入ったら?」母にバスタオルを渡される。
「入ろうかな」ソファから立ち上がる。
「千早くんも入れば」え?
「入ります~~」千早はバスタオルを受け取った。
「いや、えっと……千早、先入る?」これは確認。
「え? 一緒に入らないの?」んーー。
少し考える。まぁ、男同士の裸の付き合い的な。別に変なことじゃない。性的に見られるてる感じもない。こちらもそう言う目で見ていない。銭湯と同じ。問題なし。おけ!!!
「じゃあ、一緒に入ろうかなぁ~~」
千早と一緒に脱衣所へ向かう。脱衣所に着くと、千早は服を脱ぎ始めた。小柄で白い肌を見せる千早に心臓が早まる。
お、思ったよりドキドキする!!! な、なんで?! 元恋人だから?! 気持ちが残っていた?! 性的魅力を感じてる?! どうしよう!!! 今更だけどやっぱりやめようかな?!?!
「や、やっぱり私ちょっと……」千早から目を逸らす。
「どうしたの? 入らないの?」うっ。なんで上目遣い!
「は、入るから、先入って」千早に背を向ける。
「は~~い」千早は浴室に入り、戸を閉めた。
はぁ。大丈夫かな? 異常なくらいドキドキするんだけど!! 私には睦月さんがいる! なびいてはいない!
一度深呼吸し、気持ちを落ち着かせる。大丈夫、問題ない。服を脱ごう。浴室の扉の向こうからシャワー音がする。入ろう。扉に手をかけ、中へ入った。
「遅いよ、もう~~のぼせる」色白さが頬の火照りを目立たせる。可愛い。千早は湯船に浸かった。
「ご、ごめん」先に上がってもらおう!!
頭を洗う。体を洗う。~~~~っ!! もうっ!! 早く上がってよ!! いつまで湯船入ってるつもり?! 致し方なく、湯船に入る。距離を取りつつ向かい合う。
正面、よくない。目に全てが入ってくる。胸の突起がぁああぁあぁあぁあ!!! ぴ、ぴんくっ。えっち……。目元を手で隠し、視界を遮る。
「何やってるの?」指の隙間から千早を見る。心配している。
「いえ、別に」悟られないように冷静なフリをする。
「一緒にお風呂なんて懐かしいね。僕ちょっとドキドキしちゃったよ~~君があんまりにも色っぽくなってるから」千早は目尻を下げ、目を細めて笑った。何その笑顔!! もう限界!!!
「ごめんなさいぃいぃいい!!! 上がります!!!」勢いよく立ちあがり、急いで浴室を出る。た、たつかと思ったぁ……。
「如月くん?」千早は如月に性的にみられたことに気づき、頬を赤らめた。
着替えと寝支度を済ませ、リビングへ行く。一旦、水とか飲もう。よくないよくないよくない!!! このまま一緒に居ると、手出しちゃいそう!! 理性を保て!!!
母に遭遇。
「千早くん、お布団要らないよね?」へ?
「な、なんで……?」冷や汗が出る。
「仲良いし、一緒に寝るでしょ?」嘘っ。
「一緒に寝ない!! 布団用意して!! お願いだから!!」過ちを犯してしまう!
「お風呂ありがとうございました」千早がリビングに来た。
「千早くん、弥生と同じ布団で良いよね?」そっちに振るな!!
「構いませんよ~~」承諾するな!
「はい、じゃあいいね。用意するの面倒くさいし」母は違う部屋へ行ってしまった。
なんてこと!!! おおおおお同じ布団とか無理なんですけど!!! 理性保てるかな?! 大丈夫だよね?! 不安!!!
「とりあえず、部屋行く?」顔が見れない。
「うん」千早は如月の服の端を掴んだ。何その手。きゅん。そのまま一緒に部屋へ向かった。
ベッド、シングルなんですけど……。ただ横になって、寝るだけ。何も想像せず、ごろんとすれば、大丈夫な、はず。無を保ちながら、ベッドに寝転がる。隣に千早も寝転がってきた。同じ方向を向く。
「やっぱり狭いね」後ろにいる千早に言う。
「うん……」脚が少し触れ、ドキッとする。
はぁ、どうしよ。感情が昂って寝れなさそう。やっぱり布団もってきてもらおうかな。あ、睦月さんに連絡返さなきゃ。あれ? スマホどこ? 布団の中で手を動かし探す。
「ぁっ……」え?
「ごごごごごめん!!!」下触っちゃった!! でもスマホあった!!!
「変な声出して、ごめん」顔赤くなってる!
「私やっぱり布団もらってきます!!!」体を起こし、立ちあがろうとした私の手を千早に掴まれた。
「行かないでよ……ねぇ、ちょっとだけ、シない……?」千早が上目遣いで見つめてくる。ドキ。
(えーーーーっ!!!!)
どうする?! どうするも何も睦月さんが居るからダメだろ!!! ちょっとだけって何?! 挿れなければ……いやいやいやそういう問題じゃない!!! でもっでもっでもっ……! くっ!!!
「で、出来ない……」これでいい!
「ちょっとだけ煽ってくれれば、あとは自分で処理するから~~」悶えるような表情に下半身が疼く。
睦月さんを傷つけたくはない。えっちしたい気持ちは少しあるけど、千早とは絶対にしない。睦月さんとしかしない。
「出来ない」千早の目を見て、きちんと伝える。
「そっかぁ」少し残念そうだ。
「私には睦月さんが居るからね。布団、持ってきます」優しく千早の手を外し、部屋を出た。
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ーー翌朝
「僕は帰りますね。朝ごはんもありがとうございました。美味しかったです」千早は如月家に頭を下げ、小春の車へ乗った。
「また、会おうね?」千早に声をかける。
「もちろん~~ブックカフェいこ」千早に手を振り、別れを告げた。
一応、予定ではこの後、小春が睦月さんを迎えに行って、うちへ連れてくる形になっている。昨日来なかった睦月さんの印象は結構悪い。ここから挽回出来るのだろうか? 心配。
小春の車を見送り、家の中へ戻る。にゃあ。我が家のねこちゃん、名前は師走。昨日は全然構ってあげられなかった。随分会ってなかったけど、私のこと覚えてるの?
「にゃあ」
「ふふ。覚えてるの~~」
師走を抱き上げ、ソファまで移動する。
「はぁ。千早のせいでむらむらする……」
師走を見つめていると、ふと、あの時の情事を思い出す。にゃぁにゃあ喘ぐ睦月さん可愛かったなぁ。
『ぁあっ…如月っ続きしてにゃぁっ…あぁんっ』
はっ!! むらむらし過ぎて頭の中で勝手に妄想を!! やだ、もう! どうしよ! おさまれ。
睦月さんが私じゃないとダメなように、私も睦月さんじゃなきゃダメみたい。早く会いたいーー。
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