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23話 気持ちに反した我慢は良くない!
ーーお昼過ぎ
「早く如月とお兄ちゃんに会いたいなぁ」車の窓から景色を眺めながら呟く。
理由はよく分からないが、突然如月家へ兄に呼ばれた。夏祭りのお誘いに加え、浴衣もあるらしいので、とても嬉しい。祖母の家で暇をしていたので、楽しみだ。
「卯月ちゃん、着いたよ」車が駐車場に停まった。
「はぁい!」助手席から、降り、後部座席からスーツケースを取り出す。勝手に泊まる気できてみた。
小春お姉さんにはお泊まりの許可は取った! 兄と如月が良いって言うかは知らんけど、泊まる以外の選択肢は持ち合わせていない。
スーツケースを引きながら、玄関扉の前へ行く。小春と一緒に家の中へ入った。
「お兄ちゃーーーーん!!!」大声で呼ぶ。
「元気だね……」隣で小春が遠い目で見てくる。
リビングらしき部屋から、兄か出てきた。
「やっときたぁ~~待ってたよ~~」泣きそうな兄に抱きしめられる。きも。
「離して!! 何? 如月とケンカでもしたの?!」兄を手で押し退ける。
「いや、違うけど……まぁ色々? 大人の事情」目線を逸らされた。まぁいいけど。
「卯月さ~~ん、いらっしゃい。それ貸して?」如月は卯月のスーツケースを持った。
「ありがと~~」
「卯月さんは和室で姉さん達と寝てね」如月に手を繋がれ、部屋を進んでいく。
チラッと兄の方を見る。腕を組み、すごい複雑そうな顔をしている。「どうしたの?」と声をかける。
「スキンシップ全てをしないって言った覚えはないんだよね。うぅん……」なんの話?
「は、はぁ?」
和室へ着いた。今日はここで寝るらしい。和室には女性ものの浴衣が何枚か広げられている。誰が着るのかな? 近寄って、手に取り合わせてみる。
「いらっしゃい」知らないおばさんが後ろから入ってきた。
「こんにちわぁ、浴衣かわいいですねー」着てみたい。
「いつも息子がお世話になっています。浴衣着てみる?」如月のお母さん!!
「着たいです!! この水色に花柄のやつ着たい!!」水色の浴衣を抱き寄せる。
「丁度今から準備したら、お祭りに行くには良い時間になるかもね。ほら、男どもは出て行った」如月の母はしっしっと手で追い払った。
如月と兄が和室から出ると、小春が襖を閉めた。着付けの準備が着々と進む。どきどきしながら服を脱ぐ。
「いやぁ~~、お兄ちゃんそっくり」小春が浴衣を肩にかけながら言った。
「小春お姉さんも弟そっくりです」つん。ぷいっ。似てないもん。
「くそ生意気だな~~ほら袖通して」小春に言われ、袖に腕を通していく。
「そんなことないです。兄は迷惑かけていませんか?」小春の顔をみる。
「助かってるよ、ご飯作ってくれるし。ありがとうね」小春が目の前に立ち、着付けを始めた。
「お姉さんが着せてくれるの?」腰紐がぎゅっと締まり少し苦しさを覚える。
「そうだよ。意外と上手だよ?」如月の母と連携しながら、どんどん、仕上がっていく。
気づくと、あとは帯を結ぶだけになっていた。
「かわいいぃ~~いいね! 女の子は!!」小春が嬉しそうに見つめてくる。
「出来たよ」帯を結び終わった如月の母が、姿見を見せてくれた。
かわいい!!
鏡に映った浴衣姿にテンションが上がる。これは髪の毛を如月に結ってもらわないと!!
小春は襖を開け「弥生、睦月ちゃ~~ん」と、2人を和室へ呼んだ。妙な距離感のある2人が和室へ来た。
「よく似合ってます。髪、結いましょうか?」如月が私の髪の毛に触れた。
「うん、やって~~!!」如月に肩を押され、洗面台へ向かった。
「じゃあ先に睦月ちゃん着付けしよっか」如月と卯月の様子を羨ましそうに見つめる睦月に小春は声をかける。
「う、うん……」睦月は服を脱ぎ始めた。
「妹に妬いたってしょうがないでしょ~~」浴衣を肩にかけ、袖を通し、着付けをしていく。
「違うんです。ヤキモチとかじゃなくて……えっちしないって言ったはずなのにキスもハグもしてくれないっていうかぁ……」頬を赤らめながら話す睦月に小春は無表情になった。
「あ? なんだ? 惚気か? 婚活中の私への嫌味か? リア充爆発しろ!!!!」思いっきり、帯を締める。
「っぁああぁあぁあぁあ!!! 苦しい!!! やめて!!! きつい!! 吐く!!! 苦しいぃいいぃい!!! やっぱりちょっとはいちゃいちゃしたぃいいぃい!!!」睦月は帯を叩いた。
「黙れ!!! エロガキ!!!」よりキツく帯を締める。
「ぅあぁあぁあぁあ!!!! エロガキ違う!!!! ギブ!! ギブ!! ごめんなさいぃいぃい!! ギブギブギブギブ!!!!」
「何やってんの」髪を結い終わり、兄の元へ行く。
「ムカつくからシバいた」小春は帯を緩め、締め直した。
意外と如月家と仲良くやってるんだなぁ、なんて思い、安心する。これでも今も変わらず、兄の恋愛は応援しているつもり。最終的に2人がどんな形を求めるのかは分からないけど、上手くはいって欲しい。
「はい、終わり。次、弥生ね」兄と如月は場所を交代した。如月の着付けが始まる。兄はゴソゴソとネックレスを脱いだ服から取り出した。
「ねぇ、もしかしてそれ付けるの?」シルバーのネックレスを見つめる。
「え? 付けるけど?」ダサ。一緒に歩きたくない。
「そういう装飾品やめた方がいいと思う!!!」付けようとしたネックレスを奪い、手の中に隠す。
「何すんの!!! 今から付けるんだって!! 返して!!」兄に手首を掴まれた。離せ。ぐぬぬぬ。
「やだ!!! ダサい!!! 妹として恥ずかしい!!!」取っ組み合い、再び。
「はい、着付け終わり~~」兄は即座に如月の方をみた。どんだけ。
「髪の毛、縛ろうかな?」如月が訊く。
なんか、如月が素敵に見える。これは浴衣の魔法かしら。薄い茶色の浴衣を選択する時点で、兄とはレベルが違うな。
「縛ったら?」如月にヘアゴムを渡す。
「ありがとう」チラッと兄の様子を窺う。
口元に手を当て、髪の毛を縛る如月を黙って見つめている。見惚れているに近い。やれやれ。
「良い感じに日が暮れてきたね!! 早く行こう!!」如月と兄の手を引っ張り、玄関へ向かう。
「はいはい」如月の指が絡まってきた。このまま恋人繋ぎにしちゃお。
「如月と手……繋いでる……」哀愁に満ちた顔で見てくる兄を無視して、玄関を出た。
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「何食べる?! 何やる?!」沢山並ぶ屋台にテンションが爆上がりする。
「私、金魚掬いやってみたいです~~金魚要らないですけど」のほほんと答える如月を見上げた。
金魚掬いかぁ、お祭りっぽい!! 良いかも!! 金魚要らんけど!!
如月と手を繋ぎ、金魚掬いの屋台へ向かう。後ろから兄が怠そうに着いてくる。
「へい!! いらっしゃい!! 1回500円だよ」如月が財布から1000円札をおじさんへ渡した。
「俺、なんか食べ物買ってくるね」兄はそう言い残し、違う屋台へ行ってしまった。
「この白い和紙で掬うんですね」如月はポイを水面に付け、金魚を掬った。和紙に穴が空いた。
「穴が空きました!!!! まだ1回しかやってないのに!!!」如月は金魚掬いに課金して、もう1本ポイを手に入れた。
「下手なんじゃね?」ポイを水面に付け、泳ぐ金魚をサッと掬った。和紙が破れた。
「卯月さんも破れてますけど」如月はもう500円課金した。
「ウォーミングアップ!!! 次は絶対とる!!! 金魚要らんけど!!!」卯月はポイを水中に入れ、狙いを定め、金魚を掬った。
和紙が破れた。
「破れましたね」如月は破れた和紙を見つめ、再度金魚掬いに課金した。
「如月やってみてよ」ポイを水中に入れる如月を見つめる。和紙が金魚に触れ、破れた。
「なんか掬えないんですけど。これはアレですか? 金魚は要らないという概念がポイから金魚に伝わり、破れているということでしょうか?」如月は1000円札を更に渡す。
「このポイを2本重ねて概念が伝わらないようにやれば良いんじゃね?」受け取った2つのポイを重ね、水中に入れてみる。
「なるほど」
「よっと……また破れたぁあぁあぁあぁあ!!! これはアレか!! 2枚程度では突き抜ける概念ということか!!!」2枚重ねたポイと金魚を交互に見つめる。
「むしろ5枚くらい重ねて、金魚は要らないという概念の波動を防ぐべきでは?!?!」如月は2500円払い、ポイを5本手に入れ、卯月へ渡す。
「やってみる!!!」重ねた5本のポイで金魚を掬ってみる。
破れた。
「くそがぁあぁあぁあぁあ!!! 5枚重ねても尚、突き破る概念の力だと言うのかぁあぁぁあ!!!」破れたポイを半分に折る。
「……根本的にやり方が悪いんですかね?」如月は腕を組み、考え始めた。
「もっと合理的に掬う方法があるんじゃ?」如月に訊く。
「合理的とは……? 無駄なく金魚を掬う……もはや、ポイの必要性はない」如月は金魚を入れるお椀を水中に沈め、金魚を掬った。
「それ、合理的なの?」
「え? 理にかなってません?」如月は首を傾けた。
「まぁ確かに? その方がコスパもいいかも~~」水中にお椀を沈め、泳ぐ金魚を救った。
「取れたぁ!!!!」
「やりましたね!!!」嬉しくて、お互い笑顔になる。
「ポイでとれ!!!! ポイで!!!」金魚掬いのおじさんに睨まれる。
「だって取れないんですもん~~」如月はお椀の中の金魚を水中へ戻した。
「はい、金魚!!!」ビニール袋に入れられた金魚を渡されるが如月は受け取ろうとしない。如月と顔を見合わせて言い放つ。
「「金魚は要らないんで!!」」
「二度とくるな!!!!!」
如月と一緒に立ち上がり、屋台を離れた。
「なんか濡れちゃいましたね」袖がお互いびしょ濡れになってしまった。
「楽しかったから良いんじゃない」再び手を繋ぎ、歩き始める。
そして、気づく。兄はいづこ?
「お兄ちゃんって……」如月を見る。
「へ? あ、なんか食べ物買いに行くって言ってませんでしたっけ?」一度、足を止めた。
「食べ物とは?」如月に訊く。
「たこ焼き的な? 知らんけど」
「なるほど」とりあえずたこ焼き屋へ向かってみる。
じゅうぅ~~
「うまそ!!」家で作ったやつと違う!
「買いますか」如月はお金を払った。
ぐぅ。お腹が空いてきた。兄は見つからない。とりあえず軽く食べてしまおう。食べたいものを手当たり次第手に入れる。
「卯月さんみてください~~お面買いました」頭に狐のお面を付け、片手には綿飴を持っている。
「めちゃくちゃエンジョイしてるし!!」
「肉串とかポテトとか色々持ってる卯月さんには言われたくないです」
「あ、お兄ちゃん」また兄の存在を忘れかけていた!!! 巾着からスマホを取り出し、兄へ電話をかける。繋がらない。んーー、まぁいっか。
「み~つ~け~た~~っ!!」じゃがバターを片手に持った兄が人混みをかき分けて、来た。
「なんかいっぱい買ってるし!!!」
「どっかで座って食べません?」如月は綿飴をちぎりながら訊く。
「あっちに階段あったから、あっちで座って食べよ」3人は階段に移動し、腰掛けた。
「ところでなんで2人とも浴衣が濡れてるの?」兄が不思議そうに訊く。
如月がクスッと笑いながら答えた。
「それはあれですよ、2人で楽しいことしてたから」
「思ったより(金魚が)大きくてあまり上手に出来なかったぁ……」
「え?! 何?! 何してたの?! やめてよ!!! 変なことしてないよね?! されてない?!」あうあう。肩を揺らされる。
「最後は(手が)ぐちゃぐちゃに濡れちゃいましたね。でも卯月さん、とっても上手でしたよ。また機会があったらしましょうね」如月めっちゃ楽しそう。
「ぁあぁあぁあぁあ!!! やめて!! 妹にそんなことさせないで!!!」睦月は赤く染まった頬を両手で押さえ叫んだ。
「お兄ちゃん何言ってるの?」冷めた目で兄を見つめる。
「野外でそんなっ……俺だって……してみたいっ…」如月の目が濁る。
羨ましそうに見てくる兄の視線が痛い。何? 2人になりたいの? もう、しょうがないなぁ、少しだけだよ。後で絶対お小遣いもらってやる。
「もう一度屋台みてくるね」
私は片目を軽く閉じ、兄へウインクして、階段を降りた。
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