「ーーーーはぁっ」 　激しい口付けから解放された。次に如月が何をするのか分からない。目を開けたところで何も見えない。視界が遮断され、他の神経に感覚が集中する。 「っん……」 　如月の指先が脚に触れた。また脚……。少しでも触れられると、体がピクッと反応してしまう。それだけ敏感になっている。研ぎ澄まされる触覚と聴覚。下半身が反応しないとは言えない。 「…んっ…脚は…だめ…ぁあっ！」 　脚を広げられ、また腿の付け根を舐められた。さっきより腿から如月の舌先を感じる。 「さっき舐めた時より声出たね。可愛いよ」 　耳元で囁かれ、吐息がかかる。こんなによく聞こえるものだったっけ。恥ずかしい。 「あっ…やめっ！　あっ…触らないでっ…あぁっ！」 　如月が腿の周りを執拗に舐め、軽く幹に触れ、確かめるように包み込んだ。 「ねぇ、気づいてる？　喘ぎ声、いつもより大きいね」 　え？　そんなこと…ないでしょ……？　自分では分からない。 「大きくなってる。脚しか触ってないのに感じてるの？」 　ちゅ。 　腿の周りにキスが繰り返される。 「っん……あ……」 　大丈夫。これぐらいの愛撫なら、体は反応してもシたいまではいかない。耐えられる。さっきよりも袂を力強く握る。 「……まぁ良いけど。これはどうかな？」 　如月の指先が身体中をなぞる。何をされるのか分からないそのドキドキ感に感情が昂る。 「ぁあっ！」 　胸の突起が弾かれた。肩がビクッとする。そこは攻められたくない。感じちゃう。 「次はここにしよっか……ん……」 　舌で胸の突起の周りを円を描くように舐めてくる。指先でかりかりと刺激された。 「あっだめっんっきもちぁあっもっとはぁっ」 　いつもより刺激を感じて気持ちいい。もっとされたい。下半身に熱が籠る。 「いつもより大胆になってるの分かってる？」 「え？」 　クスッと笑う如月の声が聞こえる。大胆？　無意識過ぎて分からない。声は大きくなってる気がしないこともない……。指摘され、恥ずかしくて、頬が染まる。 「もっとだったね、いいよ。これかな」 　さっきの続きが始まった。 「んっぁあっ…あっだめっんっ…それっ良いあぁっ」 　指先で突起がかりかりされている。どうしよう。気持ちいい。止まったかと思うと、親指と人差し指の腹でつままれ、離すの繰り返し。 「…はぁっ…はぁ…」 　触られると神経の全てがそこに集中する。手が止まり、少し休憩。荒くなった呼吸を整える。 　とろ。 　脚に何かがかかった。 「如月？　何してるの？」 　見えないから分からない。次に起こりそうなことが頭に過ぎる。 「あ、ごめん。脚に付いちゃった。何って気持ちいいことするための準備だよ」 　そんなことされたら、シたくなる！！ 　如月に脚が広げられる。シたくないなら、抵抗すれば良いのに、体は気持ち良さを求め、委ねてしまう。 「それはダメだって！！　俺…我慢できな…っんぁっ！」 「シないなら、激しく動かそうかな」 　窄みに指先がめり込む。くちゃくちゅ。鳴り響くいやらしい音は敏感になっている聴覚を刺激し、性的感情が溢れてくる。 「あっもうだめっあぁあっ！　ねぇっ…ぁあっ…ぁっあっ…やめっ…これ以上は…だめっやあっあぁっ」 　ぐちゃぐちゃに中で掻き乱したかと思うと、指で前立腺を突いてくる。 　シたい。挿れて欲しい。目が帯で塞がれていても分かる。気持ち良さで目から涙が出始めている。こんなの、ずるい。ずるすぎ。挿れて欲しくなるに決まってるじゃん。 「…きさら…ぎ…あっ…挿れて…ぁあっはぁっ…」 　次第に指先の動きが鈍くなり、ゆっくり抜かれた。挿れるの？ 　塞がれている帯がするりと外された。 　視界が広がり、少しだけ眩しさを感じた。頬が赤く染まり、微かに息切れしている如月が目に入る。俺に欲情している。 「どんな風に私へお願いするのか覚えてないんですか？」 「え……？」 　なんだっけ……？　なんかすごくヘンタイ的なこと言われた気がする。あ、思い出した。俺がドロドロに乱れながら涙を流して『…弥生…シたいにゃぁっ……』と懇願？　だっけ。 　そんなえっちなビデオみたいなこと……。 「出来るかぁあぁああぁあぁぁあぁあ！！！」 「ドロドロに乱れる姿と涙は私が手伝ってあげますよ」 「それはもうクリアしてるんじゃ……？　あとは、にゃあ言うだけでは……」 「今の状態で言われたって、私がコーフンしないでしょっ！」 　いきなり肩を掴まれ、横を向かされた。覆い被さっていた如月が背後に回り、浴衣を捲り上げる。下着が荒くずらされた。 「ちょっと！！　何急に？！　どうしたの？！」 　如月らしからぬ荒々しさ。いつもと違うその強引さに胸が高鳴る。 「ほら、膝曲げて」 　如月によって膝が曲げられる。前立腺に当たりやすい感度が上がるポーズ。少し振り返り、如月を見る。ローションを指先につけ直している。 「睦月さんなら、1回出しても大丈夫だよね」 「へ？　何を言っーーぁああっ！！」 　ぐちゅ。また指がぁっ。前も握るとかっ。早く言わなきゃおかしくなっちゃう。 「ああっだめっねぇっ…聞いてるっ…ぁあっんっそんな…はぁ…あっ激しく…きもちっん…あぁっあっ」 　手も指先も同時に動く。頭がおかしくなりそうなくらい気持ちがいい。身体全体がビクビク震え、前から愛液が脚を伝っていく。 　突然仰向けに動かされる。横向きでも仰向けでも、もう関係ない。体の震えは止まらないし、涙がぼろぼろ流れ落ちる。帯のない浴衣は捲りあげられ、直しようのないくらい乱れている。 　半開きの目から映る如月は頬を紅潮させ、その瞳は今か、今かと待ち侘びている。目が合い、より激しさを増す、手と指。もうダメかもしれない。 「あっ出ちゃうっ…ねぇっあっ…きさらぎっんはぁ…ああっだめぇっはぁあぁっ……」 　体に広がる淫らでどろどろした温かいもの。絶頂に達したはずなのに、下半身は収まっていない。もっと激しくシたい。 　愛液にまみれ乱れた自分。止まらない涙。自然に口から出た。 「……っ…弥生っ…もっとシたい…抱いてにゃぁっ……」 　睦月は口元に笑みを浮かべ、とろんとした目で如月を見つめた。 ＊ 　その愛液で乱れた姿、涙でいっぱいのとろけた瞳、声を振り絞るような懇願に背筋がゾクゾクする。身体の中に熱情が巡る。 　気持ちが冷めないうちに準備し、睦月の脚の間へ入る。愛しい。ちゅ。唇に口付けしながら、膝に手をかけ、脚を広げた。ゆっくり中へ挿れていく。 「ぁああっ…」 　睦月の肩が大きくビクッと反応した。可愛い。膝をつき腰を激しく動かす。 「んっあっはぁっあっぁっはぁっきさらぎっあっんっきさらぎっはぁっあぁっ」 　ぎゅ。肩を掴まれた。涙で潤んだ瞳を一生懸命開けて、私を求めている。 　愛しい。愛しい。愛しい。愛しい。愛してる。 「あっんっあっぁっきさらぎっあぁっんっもっとあっんっっはぁっあっもっとああっ」 　眉尻が下がり、顔は真っ赤だ。私もきっと同じような顔つきだろう。私の肩を掴む手に力が入り、少し痛みを感じる。 　もっと？　もっと欲しいの？　今も大分激しいけど、大丈夫？　驚きと心配が入り混じる。 「もっとだってばぁっ！！」 　急に抱きつかれ、体に体重がのしかかり、後ろへ反る。このままでは押し倒される。 「む、睦月さん？！」 　肩を掴む睦月の手が更に強くなっている。 「もっと！！　ぁあぁっ…」 　睦月の熱量に負け、背中が布団につく。睦月が上になったことで、奥へ入り、良いところに当たるのか、体を震わせ悶えている。ふ。艶やかで綺麗だよ。腰を掴んで揺さぶる。 「ああっあっはぁっんっあっ奥っぁっあっきもちっあっきさらぎっ…ああっ」 　下から突き上げる。睦月は体を反り、大きく肩を震わせた。よく締まる。私も気持ちいいよ。 「きさらぎあっぁっあっきさらぎだいすきっぁあっあっ」 　愛しそうに見る大きな瞳に涙を浮かべ、震えながら動く姿にイキそうになる。でもそれはダメ。私より睦月さんが先。グッと堪え、身体を起こし抱きしめる。 　少しでも隙間をなくすように身体を引き寄せ、激しく突いた。 「あぁあぁあっ！！」 「っ…はぁ…睦月さんっ…」 　快楽の頂。鋭い快感が駆け抜ける。繋がりが心も体を満たし、全てが幸せだと思える瞬間。 　睦月は最後に大きく喘ぐと疲れ果てたように、肩へもたれかかり、動かなくなった。片手を頭の後ろに回し、優しく撫でる。もたれかかっていた睦月の顔がこちらを向いた。 「……どうだった？」 「なにその挑発的な顔……ん」 　軽く睦月に口付けする。 「良かったよ、すごく」 　目を細め、睦月に微笑みかける。 「あと、私も睦月さん大好きですよ」 　ちゅ。軽く目を瞑り、唇を重ね合う。柔らかな唇から、幸福感を噛み締めた。 　＊ 　気づかないうちに少し寝てしまった。目が覚めると、如月に添い寝され、布団で寝ていた。起きた俺に気づき「大丈夫？」と、如月が心配そうに訊く。いつも終わった後は気遣ってくれる。ありがと。 「だいじょーぶ。どのくらい寝てた？」 「30分くらいですかね？　そんなに寝てないですよ」 　如月からペットボトルの水を受け取る。 「ありがとう」 　体を起こし、水を飲む。冷たくて美味しい。少し体が痛い。そして怠い。 「泊まる？　帰る？」 　指の背で頬を撫でられる。愛情を感じて、笑みが溢れる。 「卯月が如月家にきてるから、帰ろうかな」 　ふと、自分の浴衣に目を落とす。 　きちゃなっ！！　薄墨色の浴衣に描かれた白い新たなる模様。シワシワになった裾。こ、これで如月家に帰る？！？！　この浴衣を返す？！？！　何があったのか一目瞭然過ぎる！！！ 「あ…あ……ゆかたぁあぁあぁあぁあ！！！」 　1番の被害者、上前を持ち、叫ぶ。 「え？　ぁあ、着付けますね」 　そうじゃねぇ！！！！ 「これ！！！　これみて！！！　どうしよう！！」 　汚れた部分を如月に見せる。 「元々そーゆー感じでしたよ」 　んな訳あるかぁあぁああ！！！ 「嘘つけ！！！　いかにも『えっちしてきましたぁ』って感じになっちゃったじゃん！！　どうしてくれるの！！」 　如月の肩を掴み、揺らす。 「あうっ…知らんし……自分の愛液でしょ……」 「愛液とか言うなぁあぁあ！！！　どぉしよぉおおぉおお！！！　恥ずかしくておうち帰れないぃいいぃい！！！」 　睦月は布団にうずくまった。 「とりあえず、そーゆー柄だったということで」 　うずくまる俺の背中を如月がポンポンと叩いた。うざ。 「他人事だとおもってテキトーに言って……」 　如月の浴衣を見る。汚れてない。 「あ、私？　細心の注意を払いました」 　俺にも払え！！！ 　俺の手を引っ張り立たされた。如月が乱れた俺の浴衣を着付けしていく。 「ま、大丈夫でしょ」 「何が？」 　ひゅ～～～ん、どーーん。 「花火かな？」 「多分。見に行きますか？」 「うん……」 　如月の手に触ると、指が絡まった。如月の頬がほんのり赤く染まった。 　浴衣は洗って返そう。如月と手を繋ぎ、ホテルを出る。遠くから聞こえる口笛のような音と爆音がする方へ足を運んだ。 　ーーーーーーーーーーーー 　ーーーーーーーー 　ーーーー