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23話(4)

 沿道から夜空を見上げる。赤や青、緑など、様々な色に光る花火が夜空一面に咲く。綺麗。消えたと思うとまた、しきりに花火が打ち上がる。横を見ると如月が口を開けて花火を見ていた。かわいい。 「綺麗だね」如月に声を掛ける。 「そうですね。私、来年も睦月さんと見に来たいです」如月と目が合った。 「うん、俺もだよ。毎年見に来よう?」 「えぇ。もちろん」  幸せそうに笑う如月が愛しくて、顔を近づける。少し恥ずかしそうにしながら、唇が重なった。はぁ。好き。大好き。離れる未来はもう想像出来ないよ。  繋がれた手にギュッと力を入れると握り返された。 「少し歩かない?」如月の手を引っ張り、沿道を歩いていく。 「良いですけど……」  家族、友達、恋人、色んな人とすれ違う。やっぱり、男性同士で手を繋いでる人は居ない。理解は進んでいるけど、所詮、俺たちは少数派。大多数に合わせて生きていく。  それでもずっと一緒にいたい。自分たちにとって、どういう形が1番良いのだろう? この答えを見つけていきたい。如月と。 「ずっと一緒に居てくれる?」繋いでいる手にもう片方の手を添え、如月の手を包む。 「ずっと一緒に居ますよ」  色とりどりの花火に照らされたかと思うと、一瞬にして、暗闇へ消える如月の顔見つめる。 「少しずつで良いからこれからのこと一緒に考えていかない? 弥生さん?」  睦月は少し首を傾け、如月の顔を少し覗き込むように訊いた。 「……っ……はい」 「なんで顔真っ赤になってるの?」そっと如月の頬に手を触れる。 「な、なんで急に……名前……っ」あぁ。 「なんとなく……ん」頬に触れた手で顔を引き寄せ、口付けする。  耳まで赤いし。めっちゃかわいいんだけど。 「ん。帰ったらもう1回えっちしない?」ちゅ。もう一度口付けする。 「……それは勘弁してください」 「ぇえ~~っ!! 我慢は良くないと思うよ!!」如月家に向かい歩き始めた。 「いや、我慢とかじゃないですから。もう今日は大丈夫なんでシません!!!」如月は睦月の手を離し、1人ずかずか進んでいく。 「いいじゃん!! 気持ち良くさせてあげるよ?」あ、如月止まった。 「はぁ? 私に受けをやれと?!?!」離れた距離を詰め、如月に近づく。 「そうですけど何か?!?! いっぱい愛しますから!!!」  ぎゅ。  如月は睦月を抱きしめ、小さく呟いた。 「……でも睦月さん下手だからなぁ」    ーーーーーーーーーーーー  ーーーーーーーー  ーーーー 「ただいま帰りました~~」  如月の後ろに隠れ、家に上がる。やっぱりこの浴衣は見せれない。誤魔化しとか無理なんだけど。 「おかえり~~お兄ちゃんどうしたの?」卯月……。 「浴衣が汚れて恥ずかしいそうです」何言っちゃってくれてんの!! 「へー、なんで汚れたの?」不思議そうに卯月が見てくる。 「己の欲望に従い、激しく愛を求め、白い花火を打ち上げたからです」如月は笑いながら話す。 「つまり?」卯月は首を傾けた。 「この汚れは愛え「やめて!!! 変なこと吹き込まないで!!! それ以上言わないで!!! 本当にやめて!!!」如月の背後から口を両手で塞ぐ。 「んーーーーっ!!!」 「卯月、小春さんたちは?」口を塞いだまま訊く。 「カワイイコと遊んでる」カワイイコ?  廊下の先からワンピースを着た女の子が歩いてくる。色白、小柄、肩まである黒髪、笑っているような目、すごく可愛いらしい。見惚れてしまい、如月の口を塞いでいた手が緩む。 「あ……」  口元を塞ぐ手のひらに小さな吐息がかかり、横から如月の顔をそっと覗く。少しだけ頬が染まっている。瞳はその女の子に釘付け。すごく嫌だ。  ぎゅ。  自分以外にそんな目を向させた相手への嫉妬から軽く如月を後ろから抱きしめる。 「まだやってたんですね、それ……」如月が小さな声で言った。 「この前は久しぶりだったし……ちょっと恥ずかしくて言えなかった」女の子が如月に近づいてくる。嫌だ。  ん? あれ? 待って。声低くなかった? 「すごく可愛いです。相変わらず」如月は手を伸ばして、女の子の頬に触れた。 「ありがと。如月くんに褒められるのが1番嬉しい」嬉しそうに触れられた手に自分の手を重ねている。  え、知り合い? てか、やめてよ。触るなって。手、触られて、恥ずかしそうにするなよ、如月。 「あ……えっと…その…私…着替えて来ます……」如月は口元を手で押さえ、逃げるように自室へ向かい、歩いて行った。 「如月?! 待っーー?!」目の前の女の子に肩を掴まれた。 「な、何か?!」相手を見る。 「今はそっとしておいてあげなよ。マスターべショーンしてたらどうするの?」はぁ?! 「いや、してるとこ見たことないし……じゃなくて!! ど、どちらさまで……?」恐る恐る訊く。 「あ、僕? 柊木千早。如月くんの元カレだよ」ヒイッ。 「君が今の彼氏? ふぅん……」少しずつ笑顔が消え、細くなった目が開かれる。 「如月くんとお風呂入ったよ。僕に対して欲情してた。ふふ。どうする?」は? 「何言って……」掴まれている肩が痛い。 「僕、如月くんとシたいんだけど。良いかな?」はぁあぁああぁ?! 「良いって言うとでも?!」自分の居ないところで何かして、それを黙っているということへの怒りで手が震える。 「じゃあ、如月くんから同意取るね。あ、夜は一緒に同じベッドで寝たからね」あ?  千早は肩を掴む手を離し、歩いて行った。  これは全て事実なのか? だとしとら許せない。俺の居ないところでなんでそんなことするの? 俺だけじゃ物足りないの?! まだ千早とかいう人のこと好きなの?!  確かめたいーー。  浴衣の汚れなど忘れ、急いで如月の部屋へ向かう。千早が先に部屋に行ってたらどうしよう。歩く足はどんどん早まる。  部屋の前まで来ると、ドアが少し開いていた。ドアノブに手をかける。緊張して中々押せないでいると、千早の声が聞こえた。 『如月くん。昔はよくこの格好でシたね』はぁ?! 『千早があまりにも可愛かったから……』部屋の中みたい。  どうしよ、入るタイミング失った。でも早く入らなきゃ。変なことになる前に!! 『今からえっちしよ、如月くん』 「させるかぁぁあぁあぁああ!!!!」ドアを押し、乗り込んだ。 「あっ……睦月さん」枕を抱きしめ、頬が赤くなっている如月を見ると、おとこの娘の千早に弱いの? って思える。 「俺、怒ってます」如月を睨む。 「あ……」目線が逸らされる。 「僕は一旦戻るね、あとでね、如月くん」後もクソもあるか!! 千早が出ていく姿を見ながら心の中で毒づく。 「ねぇ、どういうこと? 俺の居ない間に何してるの?」抱いている枕を剥ぎ取り、床へ捨てる。 「いや、別に……性的な感情はなく……」はぁ? 「見てたでしょ!! 確実に!!!」激しい怒りと嫉妬でベッドに座る如月を押し倒した。 「見てないです!! 睦月さんだけです!! ーーっはぁっ」無理やり唇を押し付け、離す。 「自分がどんな顔で千早さんを見てたか分かってるの?! 分かってないよね?! ここでマスターベーションでもしてもらう?! そうしたら確かめられるね!!!」湧き上がる、醜い感情。止められない。 「それはっ……睦月さん、落ち着いて!! そんなことしても何にもならなーー」ガチャ。部屋に千早が入って来た。 「ごめんね、訊いちゃった。しようか? 今ここで」事実を確かめたい。 「してよ、如月の前で」最低なことを言ってるのもわかる。でも、少しでも不安を消し去りたい。  身体を起こし、如月の手を引き、起き上がらせる。 「2人とも何言ってるの?!」詰め寄る千早に如月は後退りした。 「後ろでやるね。これ、お借ります」なんの躊躇いもなく、アレを使おうとしている。その感覚こわい。 「ねぇ、今彼さん。もし如月くんが僕に欲情したら、如月くんとえっちしていいの?」はぁ? 「良いわけないでしょ!!!」 「僕になんのメリットない~~っあっ」このタイミングで?!  如月は即座に顔を背けた。 「…っん……はぁ…」見ていても俺は全然欲情しない。如月を見る。背けた顔を戻し、千早を見ている。あれ? 赤くなっていない。 「んーーやっぱり欲情しません」真顔で言われても。 「ぇえ? 折角したのに……」千早は途中でやめ、ベッドから降りた。 「単純に千早のことは可愛いとは思いました。ドキドキするくらい。なんか色々すみません。お風呂の時は…その……素肌とか…やっぱり…人間なんで……少しばかり欲情したかもしれません……」俯く如月を見つめる。  一緒に入ったんだ、お風呂。怒りで胸がいっぱいになってくる。 「用が済んだら出て行って!!」千早の背中を押し、部屋から追い出す。 「ちょ、ひど!!」ドアを閉め、鍵を閉める。これで誰も入れない。  ちゃっかりもう着替えている如月。俺も着替えよう。イライラしながら、浴衣を脱ぎ、部屋着に着替え、ベッドへ乗った。 「お風呂、入ったんだ?!」如月の肩を掴む。 「えっと…その…友達とお風呂入る感覚で……そんな特別な意味は……」煮え切らない態度の如月に余計、腹が立ち、肩を掴む手に力を入れ、押し倒す。 「ちょっ!!」  ムカつく。ほんと、ムカつく。分かってる。別に大した意味もなく風呂へ入ってるって。でも嫌だ。すごく嫌だ!! 何かを埋めるように、無理矢理口付けする。 「っーー!! っはぁっ睦月さん!! 深呼吸しまーー~~っ!!」ハーフパンツの中へ手を入れ、更に下着の中へ潜り込ませ、前を握った。 「ねぇ、一緒に寝たって何? なんか2人でしたの?」怒りの気持ちが抑えきれず、強引にことを進める。 「あっ…はぁ……するわけないじゃないですかぁ……っん……睦月さんが居るのに…はぁっ」少し手を動かすだけで如月がビクッと身体を震わせ、その様子に下腹部が熱くなる。  何も言わないのは、俺のためかもしれないけど、それでもやっぱり、何か一言言ってくれても良かったのでは? そもそもなんで元カレ家に呼ぶの? 少しは気持ちあったんじゃないの? 考え出すとイライラが止まらない。 「そんなこと言って!! よそ見ばっかり!!! 俺の気持ちちゃんと考えて!!!」手を抜いて指先にローションを付ける。 「ごめんなさい!! もうしませんから!! 考えてますって!!」起き上がろうとする如月に覆い被さる。 「分かるまでやめないから」  睦月の如月への調教が始まったーー。

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