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番外編 もしも2人の精神が入れ替わったら?! 如月さんのオフィス勤め?!(2)

 心配すぎる!!!! 如月に仕事が務まるとは思えない(今更)俺の職場でめちゃくちゃ好き勝手暴れてたりしないだろうか? そんなことになっていたら、どうしよう!!!  一通りの家事を終わらせ、誰も居ないリビングでウロウロする。様子を見に行った方がいいのだろうか。この姿で? いや、オフィス自体入れないな。でも迎えに行くぐらいはしたい。 「う~~ん、家に居るのはいいけど何しよう?」  とりあえず、如月について調べてみよう。せっかくの如月の身体。如月の持ち物でも如月の身体についてでも何を調べようと俺の自由!!!  洋室へ行き、如月のカバンを手に取る。まぁ、これぐらい、いいでしょ。開けてみる。本が一冊。ゴム。ローション。いつも持ち歩いてるってどうなの? これは身だしなみなの? 疑問を持ちつつ、元あったように中身をカバンへ戻す。  なんかえっちなDVDとかえっちな本を隠していないのかな。そうしたら、弱みを握れる+如月に挿れるためのヒントが得られるかもしれない。衣装ケースの中を漁る。 「ん~~良いものないなぁ」ごそごそ。  如月のミニ本棚が洋室に置かれていることに気づく。こんなものあったっけ? 本棚は既に本が入りきらなくなっており、本棚の上に本が積まれている。こんなのいつ買ったのさ。どうせ買うならもっと大きい本棚買いなよ。  如月の気遣いを少し感じる。  それにしても本。本。本。本の山。如月の読書量の多さを改めて思い知る。はっ。もしかしたら、この本棚の中にえっちなDVDとか本が隠されているのかも!!! 期待を胸に、本棚から本を取り出していく。 「写真集?」  可愛らしい顔つきのメンズアイドル写真集が本に紛れ、出てきた。訝しみながらページを捲る。上半身裸だったり、シャワーシーンだったり、なんだか少しえっちぃ。ぇえ? 如月さん? こういうのが好みなんですか?  むっ。  リビングから油性ペンを持ち出し、写真集に写るメンズの顔に落書きする。これで、仮に1人でナニかしようとしても、何も感じない。出来ないはず。ふん。ばぁか。如月のばーーーか!!! 「なんだこれ……」えっちなDVD。  綺麗なお姉さんと可愛い男の子。これは男の子目的?!?! それともお姉さん?!?! DVDを持ち、テレビの前へ行く。まぁ、一応? 中身の確認は必要だよね。一応ね。一応。どきどきどき。  DVDプレイヤーにセットし、再生する。なんだかイケナイことをしているみたいで、鼓動が早くなる。 『あんあ~~んっあっあっあっ』  なんだろう。全然興奮しない。それ以前に、この身体、基本的にあんまりむらむらしない。さっきの本も、見ただけじゃ何も感じなかった。  え? 何? 如月はいつも、こんなにむらむらしない身体で、俺に変なこと要求したり、いきなり抱いたりしてるの? それって、本当に俺だけにしか性的な欲求を感じないってこと?  そんなに俺のこと……。  DVDを取り出し、元あった場所に仕舞う。落書きしちゃったけど、全て見なかったことにしよう。俺の理解が足りなかったのかな。まぁ如月もたまには見たくなるよね。俺は如月が居るからみないけど。  結論、如月は俺のこと、めっちゃ好き。もういいじゃん。それだけ分かれば十分。早く会いたいなぁ。もぉ。  和室に寝転がり、如月の枕を抱き寄せる。はぁ。良い匂い。はぁ。安心する。迎えに行くにはまだ時間がある。少しだけ、お昼寝しよう。  こんな日も悪くない。  あぁ~~っ、ねむくなってきた。  如月ぃ~~だいすきぃ~~。  ぐぅ。  *  パソコンをゆっくり打てる部屋というものはこの会社にあるのか? フラフラと、階段を上がり、オフィス内を彷徨う。企画課? よく分からないけど、入ってみよう。 「佐野さんじゃないですかぁ。この前は課が違うのにわざわざ荷物を運んで頂き、ありがとうございましたぁ~~」睦月さんも人が良いな。 「どうも……」  馴れ馴れしく、迫ってくる化粧の濃い女性に少し引きながら、辺りを見回す。ここにはパソコンの打てそうな場所はない。 「何しに来たんですかぁ?」 「え? 静かにパソコンが打てそうな場所を探していまして……」 「ぇえ~~そうなんですねぇ~~」語尾が耳障りだ。  なんだか話を聞くのも面倒になり、適当に相槌を打ちながら、デスクに置かれた冊子を手に取り見つめる。一枚捲る。何かの企画書みたいだ。あ~~。ここ、日本語おかしい。この誤字脱字気になる。  何これ。これでプレゼンするの? なんの面白みもない企画書だな。読んでいて、イライラする。 「赤ペンありますか?」目の前で1人ペラペラ話す女性に訊く。 「ありますよぉー」  女性から赤ペンを受け取り、企画書に修正箇所を書き込みしていく。かきかき。最後に表紙へ『つまらない、書き直せ』と大きく書き、メッセージを残す。よし。おけ。バサっとデスクに企画書を置いた。 「あ、ミーティングルームがありますよぉ」 女性が指差す先をみる。なんか個室みたいで、静かに小説が書けそう。借りよう。 「少し借りますね~~」  ミーティングルームとやらに入り、ノートパソコンを開く。やっと自分の仕事が出来る。  ぐぅ。  でもなんだかお腹が空いてきた。お弁当、カバンの中に置いてきちゃった。 「誰ですか!!! 俺の企画書につまらないなんて赤字で書いたやつ!!!」あ。 「佐野さんです」 「佐野さんです」  え? なんかダメだった系? でも誤字脱字や日本語がおかしい場所も親切かつ丁寧に記入して、書いてあげた上での感想だよ?  様子が気になり、ミーティングルームを出て、企画書の持ち主を遠くから見る。怒っている。あんまり怒らせると睦月さんの立場が悪くなるのかも……。うぅん。 「す、すみません。私です」気まずくて、俯きながら、持ち主の元へ行く。 「何? 俺の企画書がつまらないって!! ふざけてるの? 書き直せって何様? 自分が作ってみろよ!!」デスクに企画書が叩き付けられた。  え? 何? どういう状況? 自分が招いたこととはいえ、どう対応していいのか分からない!!! こ、これはパワハラ?!?! 自分の意見とか言った方がいいのかな?!?! 「……ふざけてはいないです。内容は全く持ってつまらない上に、日本語の誤用、そして、誤字脱字が多さは読む気が失せる仕上がりでした」  如月は火に油を注いだ。 「そこまで言うならお前はもっと良いものが作れるんだろうな!! お前が作り直せ!!!」  あれ? なんかさっきより怒ってる? どうしよ~~う。作り直せとか無理なんだけど。なんか聞いてると腹立つな、この人。 「はぁ? 作れますよ、誰だと思ってるんですか? 最低限チェックは入れた。作り直してあげるほどの義理はない」叩きつけられた企画書を手に取りくるくると細く丸める。 「この私が直々にチェックしたのだから、感謝ぐらいして欲しいですね。はい、あ~~ん」すぽ。男の口に企画書を突っ込む。男は唖然とし、固まっている。 「お腹減ったので、帰りま~~す」ノートパソコン片手に、企画課を出た。  社会人とは急に怒られたり大変だなぁ。全く働きたいと思わない。お腹も空いたし、とりあえずお弁当を取りに戻ろう。 「…………どこから来たっけ?」  大きなオフィスビル。如月は迷子になった。  *  ヴーヴーヴーヴー  鳴り響くバイブ音で目が覚める。畳の上に転がったスマホを手に取り見る。着信、神谷。神谷? なんかあったのかな? あるわね、だって俺が出勤してるわけじゃないし!!!  慌てて電話に出る。 「何かあった?」 『あれ? なんか声が……如月さん? え? かけ間違えた? ま、いいや。僕に今日の仕事全部やらせる気? いつ戻ってくるの? 早く戻ってこい!!』ブチ。  切れた。如月が働いていないのは分かった。う~~ん。まだお昼。お迎えに行くには早いが、とんでもないことが起こっている可能性はある。とりあえず、行くだけ行ってみるか。  ーーオフィス前  来たはいいけど、どう入る?  武器①如月弥生というブランド。  武器②見た目。  武器③佐野睦月の恋人。  名前を名乗って、女性に近づき、恋人の忘れ物(?)を届けにきたって感じで、中へ潜入しよう!!!  受付の女性に話しかける。 「えっと……お、俺? 私? き…如月です? こ、恋人の忘れ物を…届けにきたというか……経理課の……佐野睦月さん…呼んで頂けますか?」おどおど。若くて綺麗なお姉さんと話すことに緊張する。 「確認します」淡々と何か確認を取っている。 「すみません。佐野睦月さんの行方が分からなくなっています……」受付の女性は眉を顰めた。 「はぁ?」  行方不明? 困るんだけど!!! それ俺の身体だし!!! お得意の迷子?!?!(正解)早く見つけなきゃ!!! 如月が居ない以上、正攻法(?)で中へ入るのは厳しい。強行突破しよう。 「中入りますね~~っ!!」  ゲートから少し距離を取り、軽く準備運動をする。いつもと違い、体は重い。でも越えれるはず。助走をつけ、ゲートに手をつき飛び越え、中へ入る。後ろは振り返らず、そのままエレベーターまで突き進む。  エレベーターを降り、経理課までくると、神谷が忙しそうに仕事を捌いていた。なんだか申し訳ない。この格好で入るのは気が引けるが、致し方ない。オフィス内に入り、神谷に声をかける。 「神谷……おはよ。仕事大丈夫?」軽く背中を叩く。 「え? 如月さん? なんでここに? なんだろう。違和感」怪訝な表情でみてくる。 「伝票捌くの手伝うよ」  神谷のデスクに山積みされた伝票を手に取り、自分の席につく。本来、今日俺がやるべきことだったのだから、神谷にやってもらうのは申し訳ない。ボールペン片手に数字の差異、不正をチェックしていく。 「仕事早っ!!!」  神谷が目を見開いて見ている。そりゃそうでしょうよ。毎日やってるんだからさ。 「終わった。次」伝票を神谷に渡す。 「は、はい…お願いします」  神谷のデスクに溜まった仕事を片付けていく。こんな姿になってまで、結局仕事をしている。何をしているんだか。 「これ、記入漏れ。申請出来ない。持ってきたやつに返しといて」  神谷のデスクにチェックの終わった書類を全て置く。これだけやれば、あとは1人で出来るだろう。 「……佐野みたい」神谷が呟いた。 「本人だよ。見た目は違うけど。ねぇ、如月見なかった?」神谷は納得の表情を浮かべた。 「出社15分くらいで、もう経理課は出て行ったよね……。あれが如月さんなら色々納得だわ」神谷は渋い顔をした。 「なんかあった?」不安になる。 「上司相手にズバッと格好良かったよ」神谷は苦笑いをした。 「…………」頭が痛くなる。  このまま俺の身体で好き放題されては困る!!! 一刻も早く見つけなければ!! 床に置かれたかばんを手に取り、中身を確認する。お弁当箱がひとつ。持っていこう。  経理課を出て、弁当片手に、如月のいそうな場所を探した。

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