121 / 141

番外編 もしも2人の精神が入れ替わったら?! 入れ替わりのオフィスラブ?!(3) #

「お腹空いたぁ~~睦月さんのお弁当食べたいぃ~~」  空腹でぺっしゃんこになったお腹を押さえながら、オフィス内を彷徨く。どこから来たかよく分からないため、来た道を戻ることもできない。ただ、ただ、睦月さんが恋しい。  突き当たりまで歩くと『資料室』と、書かれた部屋が目に留まった。ドアノブに手をかけ、中へ入ってみる。床から天井近くまである本棚にファイリングされた資料がぎっしり詰まっていた。  なんだか、図書館みたいで、落ち着く。  資料室の奥まで進み、壁に背をつけ、床へ座る。頭上にあるブラインドから若干の光が差し込む。電気、つけ忘れちゃった。まぁいっか。ノートパソコンを開き、執筆を始める。かたかたかた。  なんとなく入ったこの資料室は外の世界の音が遮断されているようなくらい静かで。紙の匂いが漂う部屋は、私にとって、とても居心地のいい場所になっていた。  目の前の画面に集中し、全ての音が耳に入って来なくなり、お腹が空いていることですら、忘れてしまうくらいにーー。  *  如月の行きそうな場所。静かで人の気配がしないところ。そして本がある。この会社でいえば、資料室とか? あまり使われていない資料室。資料室のある階まで階段を登る。重い扉を開け、突き当たりまで進む。  電気は付いていない。人の気配もしない。誰かがいるようには思えない。でも、居るとしたらここ。自分を信じ、ドアノブに手をかけ、中へ入る。  かたかたかたかた。  タイピングするような音が聞こえる。音の鳴る方へ、歩いていく。  ーー如月、みつけた。  ホッとして笑みが溢れる。  集中しているのか全くこちらには気づいていない。静かに近寄り、隣へ座る。 「あ……睦月さん。どうしてここに?」流石に気づいたのか、ノートパソコンを閉じ、驚いたように見つめてくる。 「随分、俺の身体で暴れてくれたみたいじゃん」如月の肩にもたれかかった。 「ちょっと腹が立ったから言い返しただけですって」クスッと笑う姿は自分の顔とは思えない。 「お腹空いてない?」弁当箱を如月に見せる。 「食べたいです~~お腹空きましたぁ~~」  弁当包みを床へ広げていく。いつも俺が持って行くような、昨日の晩ご飯のあまりもので作った弁当とは違う。如月のためだけに作った、ちょっぴり豪華な愛妻弁当。 「手作り愛妻弁当で~~す」箸で卵焼きを挟み、如月の口元へ運ぶ。 「ぇえ? そうなんですかぁ?」嬉しそうに頬を赤らめて、食べる如月にドキッとする。 「ふふ、美味し」  美味しい美味しいと喜んで、食べてくれて、本当に嬉しい。作った甲斐があった。相当、お腹が空いていたのか、あっという間に一粒残らず弁当を完食。ありがとう。 「ごちそうさまでした」如月は手を合わせ、箸をケースにしまった。 「どうするの? 経理戻るの?」如月には今日はここでサボって頂きたい。 「ここが気に入ったので、終業時間10分前くらいまで、ここに居ますよ」気持ちを汲み取られたように微笑まれた。  しばらく見つめ合う。俺が如月で、如月が俺だとしても、その関係性になんの変わりはない。見た目が違っても、愛しく思う気持ちは同じ。  キスしたい。  こんな場所で不謹慎だろうか? オフィスラブのような秘密の密会に気持ちが昂る。壁に片手をつき、如月に顔を近づける。 「なんだか、この顔も見慣れてきました。これが、戻らなかったとしても、私の睦月さんへの気持ちは変わりませんよ」  如月は睦月の頬を両手で触れた。 「そんなの、俺だって変わらないよ。愛してるよ」  頬を赤らめ、瞼を閉じ、待っている如月。薄目を開けて、口付けする。唇が触れ合うと、釣られるように、瞼を閉じた。少し開いた口唇から、ゆっくり舌を差し込み、待ち受けていたあたたかい舌先と深く絡める。 「ん……んっ……はぁ……ん……はぁ…ん…」  如月と呼吸を合わせながら、絡め合う舌が気持ちいい。時折漏れる、甘い吐息を感じながら、瞼を開ける。  柔らかい茶色のさらさらとした髪。切れ長の瞳に長いまつ毛。白い肌。中性的な雰囲気に似合わず、つけられた黒いピアス。  目の前に居るのは如月。  さっきから如月が居たことには間違いないはずだけど、夢から覚めたように、愛しく想う気持ちと、性的な欲求が湧く。  如月に壁ドンされているという、今までにないシチュエーションは余計に気持ちを掻き立てる。 「戻りましたね。この後どうしますか?」 「どうって……し…仕事に戻ろうかな」  本音はこの昂った感情のまま、今ここで、もっとキスしたいし、オフィスラブのようなシチュエーションを体感しながら、いちゃいちゃしたい。  普段なら言えるけど、やっぱりここは職場。どこかブレーキがかかり、希望と違うことが口から出て目線が下がる。  如月はノートパソコンを床へ置き、立ち上がった。突然、手を引っ張られ、立ち上がる。誰も居ない資料室に2人きり、鼓動が早くなる。 「壁ドンは趣味ではないのですが」  とん。資料棚に背中が当たる。資料棚に伸ばされた如月の両腕。棚と如月の間に、挟まれる。棚に追い詰められ、顔が接近し、頬が赤くなる。 「睦月さん、顔真っ赤~~かわい」 「う、うるさい!!」恥ずかしくて顔を横に背ける。 「顔、横に向けたらキスできないよ?」顎が指で軽く掴まれ、上に向けられる。恥ずかしい。顔が熱くなる。 「ーーっん…ん……っん…はぁ…あっ…ちょん~~~っ」押し付けられた唇。唇を唇で感触を確かめるように軽く甘噛みされ、同時に、タンクトップの下に手が入ってきた。 「こ、こんなとこでだめ、絶対……あっ…んっ……ぁっ…あっ」突起が指先で何度も弾かれ、肩がビクッとなる。 「ダメっていう割には体は素直だね?」胸元に這っていた手が徐々に下がり、ワイドパンツの中へ入った。 「こ~~んなに感じてるのにダメなの?」手が下着の上から添えられ、撫でてくる。 「あっ……やめて…んっ……だ…だめ……ぁっ」体は求めるように熱くなるばかり。 「そうは思えないなぁ。ほら、硬くておおきくなってる」下着の中に手が入ってきた。 「だめだってぇ~~……」  手を掴んで抜けばいいだけの話なのに、それが出来ない。だって、ダメじゃないから。もっとしたい。資料室の雰囲気と如月の言葉攻めに調子が狂い、上手く言葉に出来ない。 「んっ…ぁあっやめっ…っん…だめっあっ…あっ…」優しく握られ、下着の中で手が上下に動く。気持ち良さで目尻が垂れてしまう。 「それがダメな顔なの? 随分、トロンとした目だけど?」恥ずかしくて、手のひらで顔を隠す。 「……っ…あっ…んっ…はぁ…だめだってばぁ…やっ…んっ…はぁ」気持ち良さで体が震え、息が切れする。 「あ……少し出ちゃったね」快感で、下着が湿っぽくなっていく。イキそうになると、手が止まり、焦らされる。早く出したい。 「睦月せんぱいどうします? 出しますか?」如月は睦月に訊く。 「何そのコンセプト。それはダメだよ、如月くん」突然の先輩呼びに笑いを堪えながら、同じノリで答える。 「ぇえ~~っでも今にも出ちゃいそうだね」手が少しずつ早く動き出す。きもち……。 「やっ…んっ…あっ…だめぁっ…でちゃうからぁっ…あっやめっはぁあっ」ゾクゾクする身体の震えと共に、下着の中で暖かいものが広がった。 「どうするの、こんな風に出しちゃって。えっちだね、睦月せんぱい」下着の中から手が抜かれた。 「……如月のばかぁ~えっちぃ」  赤くなった顔を隠すように、如月の胸元に顔を埋め、抱きつくと、優しく頭を撫でられた。 「なんですかそれ~~」 「ほんとはえっちな本もDVDも持ってるくせにぃ」頭を撫でる手が止まる。 「は?」固まっている。 「俺、知ってるもん。如月が可愛い顔のメンズアイドルの写真集みてはぁはぁしてるの」チラッと如月を見つめる。思考停止している。 「DVDも可愛い男の子だった。ねぇ、そーゆー子がタイプなの?」  自分の中で区切りを付けたはずなのに、やっぱり気になってしまう。こういう問い詰めはよくないとわかっていながら、やる自分は本当にダメだ。 「見たんですか? アレを」心なしか頬が赤い。 「見ましたけど。僭越ながら本もDVDも拝見しました」ぎゅ。後ろに回した腕に力を入れる。 「あれはその…貰い物というか……別に私が…その…好んで買った訳じゃ……」  顔赤くして、言い訳(?)しておる。 「そ、それに今は睦月さんがいるから……えっと、その……」  もう、十分だ。  顔を真っ赤にしておどおどしている如月が可愛くて、顔を傾けて、口付けする。ちゅ。更に耳まで赤くなる如月に好きだとしか、言いようがない。可愛い。 「如月、顔真っ赤~~かわい」さっきの仕返し。 「……うるさいなぁ、早く仕事行けば」如月は恥ずかしそうに顔を横に逸らした。 「良いのかな~~? そんなこと言ってぇ? 俺行っちゃうよ~~?」  抱きついていた腕を離し、如月に背を向け、3歩進む。 「ぁあっ……ま、待って」  ぎゅ。ジャケットの裾が掴まれる。  いつもとは反対。引き止めてばかりの俺だけど、今日は如月が俺を引き止めている。なんだか嬉しい。踵を返し、如月に近づき抱きしめた。 「あ……えっと……」急な反応に困っている。 「なに? 弥生さん。どうして欲しいの?」  目が泳いだり、頭を掻いたり、恥ずかしそうにしている。細めた目で、何も言わず、ただ、真っ直ぐ如月を見つめる。 「……一緒にいて欲しい」  目を伏せ、紅潮した頬で言う如月になんとも言えない気持ちになる。一緒にいます。一緒にいますとも!!! でも経理課には戻りたい。一緒に連れて行ってもいいかな。 「じゃあ、職場体験ということで」 「職場体験?」如月は首を傾けた。  弁当片手に、如月の手を握り、資料室から出て経理課へ向かう。周囲の視線が突き刺さる。  社内では、俺が男性を好きとか、男性の恋人がいるとか、色々な噂がたっているのに、こんな堂々と如月と手を繋いで歩いたら、事実として確実に認められるだろう。  それはそれでいいのかもしれない。  握った手をずらし、指の隙間から、指を差し込む。  絡み合う指先と、頬を染め、お互いを恥ずかしそうに見る2人は、誰が見ても、恋人にしか見えないーー。

ともだちにシェアしよう!