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第24話
手を繋いだまま道を歩く。半歩ほど先を歩く伊織の後ろを雄大は黙って追いかけた。人通りの多かった通りから、数本入ったところで、伊織の歩くスピードが遅くなった。伊織の隣に並んで、歩調を合わす。
「なあ……、どこまってやったんだ?」
「うん?」
「練習、したんだろ?」
進行方向を見たまま、伊織が言った。繋いでいた伊織の手の力がほんの少し強くなる。
「した。けど……、なんかうまくできなくて……」
練習の成果というか、どこまでできるようになったのかを、雄大は包み隠さずに伊織に伝えた。毎日チャレンジしているけれど、指は二本入れるのがやっとの状態だ。雄と一緒に触ると、ほんのちょっとだけむず痒いような、ぞわぞわとした感じがするのだけれど、気持ちいい、とは少し違う気がする。
「どんな感じだった?」
「痛くはない、と思う。けど……」
「それ、俺やっていい?」
「え?」
立ち止まった伊織に聞かれて、雄大は顔を横に向けた。雄大と視線合わせてきた伊織の目が、すぅと横に移動する。伊織の視線を追ってみたら、派手なネオンが続く道が見えた。
(あ……)
してみたい、伊織と。
けれど、伊織のサイズは雄大のものよりも一回りくらい大きい。指が二本しか入らないのでは、到底入るとは思えなかった。
「されんの、嫌?」
即答できずにいたら、伊織に聞かれた。ネオンから視線を移動させ、ごくりと唾液を飲み込む。握っていた手を少し引いて、伊織を見上げた。
「嫌じゃ、ない」
できるかわからないけれど、してみたいのだ。試す、とかそういうのではなくて、伊織に触れたい。
「じゃあ、行くか」
頷いて、歩き出した伊織についていく。
わかりやすいピンクや赤の目立つ看板が建物ごとに光っている。いくつかの建物を通りすぎ、「こっち」と言われて白い看板の建物の中に入った。
入り口を抜けると、マンションみたいにいくつかのドアが並んでいた。部屋番号が光っているところに向かって伊織が歩いていく。扉を引いた伊織に促されて雄大は部屋の中に入った。靴を脱ぎ、数歩歩いてキョロキョロと部屋の中を見回す。
真っ白なシーツがかかったシンプルなダブルベッド。ベッドから一メートルくらい離れたところにあるのは、四角いテーブルと対面に置かれた一人がけのソファが二つ。
(この部屋、なんか……)
雄大が入ったことがあるラブホテルは、広い部屋にダブルベッドよりも大きなベッドが置いてあって、二人で座れるソファがあって、ソファの前にはローテーブルがあって、まあ、つまりは広い部屋、だったのだけれど、この部屋は違う。
「なんか、普通のホテルっぽい」
「まあな」
フロントもないし、出るときには部屋の精算機を使うから、人の目が気にならないだろうと伊織が言う。
「確かに。こっちは……」
シンプルな造りだ。トイレや風呂も同じようにシンプルなのだろうかと思って、部屋の向こうにあった扉を引いてみる。部屋から見える扉はこれ一つだけだから、この先にはトイレと風呂があるはずだ。
扉を開けた先には、二畳程度の脱衣所兼洗面所。右側にある半透明の扉を開けたら、マンションの風呂よりは広いが白と黒を基調としたスタイリッシュな風呂場があった。半透明の扉を閉め、左側の扉も開いてみる。狭くも広くもない、想像どおりのトイレだ。
「雄大」
「ん? 何?」
名前を呼ばれて、洗面所を出る。ベッドがある部屋に戻ったら伊織にグイと引き寄せられた。
「うわっ……」
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