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第1話
こんな事、現実に起こるなんて思いもしなかった。
起こったとしても、自分には関係ないところで起こるんだと。
「ようこそおいで下さいました、花嫁様。私 は、この召喚の塔を管理している者です。あなた様は、北の魔王様の花嫁として、この世界に召喚されたのでございます」
「・・・・・・・・・はぃ?」
え、ちょっと待って、ゆっくり丁寧に説明してもらっといて申し訳ないんだけど、俺が、誰の、何として、召喚されたって?
「伴侶となる北の魔王様は、すぐおいでになると思います。それまでお休みいただけるお部屋をご用意しておりますので、こちらへどうぞ」
「・・・ぇ、いや、まって、はんりょって・・・伴侶?」
「左様でございます」
座り心地の良いソファがある、応接室の様な広い部屋へ案内され、どうしても確認しておかなきゃならない事を聞いてみる。
「あの、魔王様って、女性なんですか?」
「じょせい、とは?」
え、待って、そこで躓 いちゃうの?
「女性・・・女の人・・・雄雌で言ったらメス・・・」
「北の魔王様はオスでいらっしゃるかと。花嫁様はメスでいらっしゃる様ですし」
「いやどっからどー見ても俺は男ですけど?」
「おとこ、とは?」
塔の管理人さんと暫く押し問答が続いた結果、この世界に女性はいないどころか概念すらなく、みんな身体的特徴は男である、との事。
男同士で番 うため、容姿や性格等でオスかメスか判断し、オスに抱かれたメスは妊娠が可能という恐ろしい世界だった。
俺は見た目的にも、召喚された魔王の花嫁である事実からも、メスだそうで・・・。
いややめて、俺は男だし生物学的に雄なんです。
お恥ずかしながら恋愛経験はないですが、女の子が好きなんです。
19歳にもなって身長が168cmしかなくて、顔も母親似で童顔だけど、ちゃんと男なんです。
「あの、元の世界に帰る方法ってあり・・・」
「ございません」
食い気味にばっさり否定された。
なんでだよ、異世界召喚なんて凄い事出来るなら、返還だってお手の物じゃないの?
「ところで、魔王様・・・って、いつ来るんですか?」
管理人さんにこの世界の事とか説明してもらいながら、かれこれ小一時間は待っている。
いつまで待つ感じですかね?
俺としては、魔王なら元の世界に返還出来るんじゃないかと、淡い期待を寄せてるんだけど。
「それが・・・実は花嫁召喚はひと月程前、既に行われておりまして、その際3人の花嫁様がおいでになり、東と西と南の魔王様に娶 られました。北の魔王様は花嫁を迎えられず、領地へお帰りになっており、あなた様がおいでになった事をお知らせはしたのですが・・・お支度に時間がかかっていらっしゃるのかもしれません」
え、俺って出遅れたの?
もしかして、めっちゃ間が悪かった?
でもさ、余り物とはいえ、確実に手に入る花嫁が来たってのに、すぐ迎えに来ないって事は・・・。
「俺って、望まれてないんじゃ・・・」
「その様な事は決してございません!何かご事情があるのです!どうかもう暫しお待ち下さい!」
ちょ、管理人さん圧が凄い。
でもなんかその慌てっぷりが、益々俺の不安を肯定するんだけど・・・。
表情が複雑になった俺を 宥 めるためか、管理人さんがお菓子と紅茶を用意してくれた。
・・・おいしい・・・けどなんか・・・吐きそう・・・これからどうしよう・・・。
「北の魔王様の伴侶以外に・・・俺がこの世界で生きる方法って・・・」
「ございません」
「どっか就職先とかって・・・」
「北の魔王様へ永久就職をどうぞ」
いや、だから、需要がないんだって。
不採用なんだって。
そもそも募集してないんだよ北の魔王様は。
あーなんか、具合悪くなってきた・・・。
「・・・ごめん、ちょっと、横になりたい、かも・・・」
「いかがなさいました花嫁様!?す、すぐに医者を・・・ああ!北の魔王様!お待ちしておりました!花嫁様がっ!」
え、来たの、魔王・・・いっそ来なくて良かったのに・・・。
「何があった」
「それが、体調が悪い様で・・・」
ソファでぐったりしてる俺の前に、魔王が立った。
・・・顔、見るの怖い。
こんなどうしようもない状況で、俺の事歓迎してない奴の顔なんて、見たくない。
なんで勝手に異世界に召喚されて人生詰んでんの。
やばい、見たくない、苦しい、泣きたくない、恐い、帰りたい、息出来ない、話したくない、泣きたくない、泣きたくない・・・!
「泣くな、こっちを見ろ」
「・・・っ、ぅ、・・・っく、・・・ふぇ・・・っ」
魔王が俺の前に跪いて、俯いた俺の顔を覗き込んでくる。
泣いてるってわかってんなら見るなよ、礼儀だぞ。
一方的に泣き顔を見られるのは癪に触るので、睨んでやろうと少し顔を上げる。
目の前には、碧 みがかった銀髪に冷たい銀色の瞳。
見た事ない、こんな綺麗なイケメン。
そのイケメンの両手が、俺の両頬を包む。
触るな、見るな、泣いてない、見るな・・・!
「迎えに来るのが遅くなって悪かった。償うから、泣かないでくれ。ほら、おいで」
抱き寄せられ、拒否しようと暴れたけど魔王はびくともしない。
身体でかくて力も強いのに、なんで優しく包み込んでくんだよ。
頭撫でんな、触るな、耳元でいい声で「悪かった」って囁くな・・・!
くそ、早く泣き止まないと・・・よしよし慰められるとか屈辱だ。
「俺は北の魔王アブソルート=ゼロ。お前の名は?」
「・・・ぅっ、・・・ぁぉ、と・・・、・・・っ、な・・・っ」
「アオト、セナか。セナ、俺の花嫁」
「・・・ん・・・、んんぅっ!?」
よく聞き取れたな、と感心しそうになってたら、魔王と目があって、唇に柔らかい物が押し付けられた。
おい嘘だろ、ちゅーしてるのこれ?
やだ、やめて、何でちゅーすんの?
今会ったばっかりの男にちゅーするの何で?
「んっ、う、ゃめ・・・んぁっ・・・むぅぅっ」
やだやだやめて!
舌入れてこないで!
経験ないからどーしたらいいのかわかんない!
「・・・んぅっ、ふぇ、・・・んちゅ・・・ふぁっ」
涙引っ込んだ・・・。
「いい子だセナ。では花嫁は連れて行く。ご苦労だった」
「ありがたきお言葉」
魔王が管理人さんに声をかけ、俺を姫抱きして立ち上がった。
いや、やめて、お姫様抱っことかどーゆー拷問だよ・・・。
抵抗したいのに、泣き過ぎたからか身体に力が入らない。
ちょっと待って、望まれてもいないのに、このまま義理で娶られるのなんて嫌だ。
しかも俺がメスの立場とか絶対無理。
ちゃんと話をさせてくれ。
俺は嫁になんて行くつもりないんだって。
「・・・ま、まって、はなし、きいて」
「ああ、俺の城で話そう。転移魔法を使うからすぐに着く」
いやだから、待ってよ、話聞いてよ!
口を開こうとしたら、足元がぱあっと明るくなった。
見下ろすと、魔王の足元には大きな光る魔法陣が。
うわ、異世界凄い・・・なんて感心する間もなく、辺りの景色が一変した。
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