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プロローグ

生きていれば一つくらい、思い出したくない過去というものが誰にだってあるだろう。 かくいう俺にもそんな思い出がある。できればタイムマシンで過去に戻って『あの時』だけをやり直したいほどには、最悪な思い出が。 どこでどう正しい道を進んでいれば、こうなっていなかったのだろうか。 「――兄さん」 声変わりをする前の、少し高めの掠れた声。 まろい頬をピンク色に染めて少し恥ずかしそうに俺を兄さんと呼ぶあの子のことが、可愛くて可愛くて、仕方がなかった。 お互い初めての男兄弟で仲良くなりたくて、毎晩同じベッドで眠っては色んな話をしたっけ。 でも、いつから俺たちの関係は歪んでしまった? あの時?この時?それともあれ? 考え出したらキリがない。そもそも俺が母さんの再婚に反対していたら出会うこともなかったし、こんなことにならなかったのにと思ってしまう。 でも、出会わなかったらどうなっていたかな。 俺もお前も普通に女の子と付き合って、別れて、また付き合って、結婚を考えるような人ができたのだろうか。 それとも、10年前に戻って出来事を変えても、いつかどこかで出会っていただろうか。 「兄さん、知ってる?アルファでもオメガになる方法」 謝るから。 だから、お願いだから、俺を――

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