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周囲の反応
「あら?どうしたの?」
京介は憮然とした顔のまま実家へと向かった。
いつもと様子の違う京介に少し驚きながら、眞知子さんは声をかけてみる。
さっき仲睦まじい画像が送られてきて、微笑ましいと思っていたところなのに、なんでこんな怒って実家に帰ってくるようなことになってるのか意味がわからなかった。
「今日、誕生日祝ってもらってたんじゃなかったの?ほんとどうしたの」
とりあえず居間のソファに座った京介だったが、今は眞知子の干渉も少しうざく感じて
「別になんでもないよ。部屋、寝れるようになってる?」
「え?ええ、ベッドにお布団は畳んで置いてあるけど…大丈夫?」
思春期の難しい年齢の時以来の京介のこんな様子に、眞知子は戸惑うばかりだ。
雄介に相談しようにも、10日ほどの出張に出ていて帰るのは来週の半ばである。
「大丈夫ってなにが。平気に決まってる……多分」
そう言い残して京介は部屋へと上がって言ってしまった。
眞知子は心配そうに見送って、ため息と共にソファへ腰掛ける。まさかてつやくんと喧嘩でもしたのかしら。いつもあんなに仲がいいのに珍しい…、とは思うがてつやのことで怒ってるにしては結構深刻な顔をしていたと思う。
「まさか…ねえ…」
仲がいい息子カップルの様子が思い起こされて、間違ってもそんな事にはならないだろう、と思ってもみるが人の縁だから…とも思ってみる。
眞知子はスマホを取り出して、とりあえずグループラインで梢さん と葉子さん に今の出来事を相談する事にした。
部屋へ入った京介は、深くため息をついてベッドのマットレスへ座る。
てつやのこれまでの環境では、自分の言っていることが理解できないのだろうか。
若いうちから変に金を持ってしまったから、他の人間に手出しはさせないと言う頑なな思考が生まれたか…。
そう考えて京介は頭を振った。なんだか今は嫌な発想しかできなくて、自分が嫌になってくる。
そう言うやつじゃないと言うのは解っているのだが、京介にしてみたら自分の持ち出しがない家にのうのうと住むことなどは本当にできない。
「解って欲しいんだけどなぁ…」
そう思うが、てつやのやつは『一緒には…』の後『いられない』って言おうとしてたな、止めたけど…。という気持ちがモヤモヤする。
自分も似たような捨て台詞で家を出てしまったが、どうあっても自分は譲れないのだから、新しい部屋に住めない以上は…『そう言う事』もありえるのだろうか。
ずっと思いがあった分、正式にそう言う関係になってまだ一年たっていないという事実が信じられないほど仲良くやってたが、やはり思うのは展開が早すぎたのかなと言うこと。
普通のカップルだったとしても、一年たたずに一生添い遂げようなんて気持ちにはならないかもだしなぁ…
「まあ普通のカップルと比べても仕方ないか…」
2人が思い合ってた時間は、ずっと長かったのだから、やはりそこは比べられないか…とも思ったり。
しかしまあとにかく
「あいつが納得するまでは…帰れねえな…」
と、パンツのポケットにタバコを探ってみたが、部屋でしか吸わないあの家に置いてきてしまった事に舌を鳴らす。
「買いに行ってくるか…」
京介は立ち上がって、財布を確認してから散歩行ってくると玄関を出た。
「あれ?お兄?どしたの?今日誕生日会やってんじゃないの?」
詩織がちょうど帰ってきて玄関を出たところで鉢合わせる。
「うるさい」
誕生会のことをみんなに言われ、そんな日にこんな事になったことが少し腹立たしい京介は、一言そう言って歩いて10分ほどのコンビニへと足を向けた。
「何あれ」
詩織もそんな態度に腹を立て、家に入って誰にともなくーなんでお兄は機嫌悪いの〜あたしに当たらないでほしい〜〜ーと愚痴りながらリビングへと向かう。
ソファで眞知子がなにやら一生懸命LINEをしていて、
「お母さん、お兄なんなの?なんでうちにいんの?なんであんな不機嫌?」
当たられたわ〜と眞知子の隣に座り込んだ。
「てつやくんと何かあったようなんだけど、まだ誰もそのことがわからなくてね」
眞知子が不安そうにそう言って、LINEを打ち続けている。
「え?てっちゃんと喧嘩したの?珍しいね!なになに?何があったんだろう〜〜大事だねこれは!」
詩織はなんだか面白がり始め、嬉々として彼氏 にLINEを送り始めた。
浅沼家はなんだか大混乱だ。
一方…
『てつやと京介が大喧嘩したらしいぞ』
銀次のスマホにまっさんからラインではなくショートメールが入る。
グループLINEだとあの2人にも言ってしまう配慮だろう。
『は?京介生きてんのか?』
てつやが喧嘩巧者なのは周知のことで、そのてつやと喧嘩したとなれば京介とて無事ではないだろう。夫夫喧嘩は大抵ポカポカの殴り合いはつきものだし(そんなことはない)
『そうじゃねえだろ、なんでファイトなんだよ。詳しいことはまだわかんねえんだけど、京介実家に帰ってるらしい』
まっさんの母と眞知子さんが銀次母もいれて会話してるようだぞとおしえてくれる。
『うへっ、必殺実家帰りか〜何があったんだろうな。見てるのも恥ずかしいほど仲がいいのになぁ』。
これは銀次の見解だが、多分みんなそう思ってる。
『今日の今日だから、直接聞くのはちょっと憚られるよなぁ…』
そう言いながらも、まっさん としては事実確認はしたい気持ちでいっぱいだ。
『あいつら今日、京介の誕生日祝ってるんじゃなかったっけ。そんな時にかぁ、よっぽどだな』
銀次が飲みに誘ったらそう言われて、飲み会は明日の日曜になっていた…が
『明日来るかな…』
『カッカしてたら覚えてないかもな。取り敢えずは、京介に聞く方がいいのかな…明日朝イチで京介と連絡とってみるか』
『いや、今から京介飲みに誘わね?イライラしてたら酒も飲みたいだろうし』
銀次のアイデアはいつでも前向き。
『お、いいかもな。来ればの話だけど、一応声かけてみるか。じゃあ俺ちょっと電話してみるわ。少し待っててくれ』
まっさんの言葉にーはいよーと返して、銀次はスマホを置いた。
ーてつやと京介が喧嘩ねえ…どうせ犬も食わないようなやつなんだろうけどなー
へっと笑って、銀次は居間へ向かってこっそりとみてみた。
案の定スマホに張り付いてなにやら打ちまくっている葉子がいる。
ー母たちは母たち で、色々やってんだなー
そう納得して部屋へ戻ろうとした時にまっさんから連絡。
『行くってさ。9時に何時もの 居酒屋権太 に集合な』
「了解」
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