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仲間たちの考察
店に入ると、銀次とまっさんが隅っこのテーブルで手を振っていた。
土曜の夜ということで店内は賑わっていたが、時間が少し遅くなってきていたので、なんとか飛び込みでも席が取れたらしい。
「まずはビールでいいか?」
2人は先に始めていて、やってきた店員さんに生ビールをつげた。
「1人いないと寂しいなあ?な?」
ビールを待つ間まっさんと銀次の前のお通しをつまみながら、京介は興味津々な2人にちょっとうんざりする。
「まあ、呼び出された理由はわかるけど…情報はええんだよ」
お通しの枝豆は塩気がちょうど良くて、うまいなあと思いながらそう言うと、
「かーさんズがザワついてた。喧嘩なん?」
と銀次が相変わらずストレートに聞いてきた。
「喧嘩…なのかなんなのか…俺にもよく解らん」
枝豆の殻を殻入れに放り込んだ時、京介のビールとお通しがやってきて
「まあ、そこはじっくり聞くとして、乾杯…乾杯でいいよな誕生日おめでとう京介」
といじってくる仲間は最高だ
「お前らな!」
苦笑しながらジョッキを合わせて、京介は一気に飲み干した。
「おお?荒れてんなぁ」
銀次も笑って、ちょうど目があったお姉さんにジョッキを掲げてもういっぱいの合図をする。
「で、なんなんよ」
食事はてつやが作った唐揚げで済ませてきてたから、それほどお腹は空いていないが、口寂しい感じもして、京介はメニューを眺めている。
「ん〜〜、マジで良くわかんねえのよ。俺が間違ってるのかてつやが間違ってるのかがさ」
京介のビールを持ってきたお姉さんに、焼き鳥セットとミックスサラダとたこわさを頼んで、もう一回ジョッキを合わせた。
「どゆこと?」
「お前たちにも聞いてみたくて今日来たんだけどさ…」
京介は一連のやり取りを2人に話し、どっちが間違ってるかを判断してほしかった。勝ち負けではないが、自分が悪いなら謝る準備もできるがしかし…だ。
「なるほどねえ…結構難しい話だよなそれ」
銀次も枝豆を口にしながら、思案するように目だけで天井を見る。
「現実と感情論のぶつかり合いだしな」
まっさんの言葉は鋭かった。
「俺はどっちの気持ちもわかるんだけど、やっぱ現実問題として肩入れしたいのは京介だよな」
まっさんが味方についた!
「確かに。てつやの気持ちは痛いほどわかる…んだけどやっぱそこは折れるべきはてつやだよな」
銀次も味方に!
実際問題としては、やはりてつやの分が悪いとしか言いようがない。
しかし友人としててつやを納得させる言葉が見つからないのだ。
3人して数秒黙り込んでしまったが、その間をついてまっさんのスマホがなる。
「うぁっ…てつやだ…」
まっさんは人差し指を口に当ててから、電話に出た。
「うい〜す」
『あ、まっさん悪いな夜に』
「いいさ、どうした?っていうか何やらかした?」
『何ってもう知ってんのか?』
まあ、今聞いたからとも言えず、
「かーさんズが連絡取り合っててな。京介実家に行ったらしいじゃん、眞知子さんから各母親たちにLINEが行ったようなんだ。まさにママ会議炸裂中だぞ。どしたって、かーさんずも理由知りたがってるぞ」
『ん…』
てつやは、さっき京介が話してくれたことと同じことをまっさんに教えてくれたが、少し違うのは
『最悪…俺ら別れるかも…』
と言う最後の言葉だった。
「は?何お前、何言ってんの。あんなラブラブ見せつけといて今更…」
『京介が、金受け取らないなら新しいマンションには住めないって言うんだぞ。俺は受け取る気ないから…だから、結果はそうなっちまうかも…って』
どこかで折り合いをつけようとしている京介と、てつやの考えの違いが露呈する。
「折衷案とか考えないのかよ」
『ねえもん。俺は受け取る気ないし、受け取らなければ住めないって言うんじゃさぁ…』
「お前京介と離れても、今まで通り仲間でいられるんか?それなら別にいいんじゃね?って言うしかないけど、どうなんだよ」
離れてと言うまっさんの言葉に、京介を銀次は顔を見合わせた。電話の中ではそんな話が…。
「お前仲間大事にしたあまりに、遠回りして京介とくっついたのに今ここで仲間壊すん?」
『脅しかよ。そう言うわけじゃないけどさ、結果そうなっちまうかもってだけで…あいつが折れれば話しは違うけど…』
まっさんは、ゴニョゴニョ言うてつやにため息をつきかけ、少しつついてやりたくなった。
「今の話聞いる限り、折れるのはお前の方だと思うぞ」
『なんでだよ!俺の言ってること違うか?お前らに一生かけて恩返ししたいっていうの知ってるだろ』
「わかってるって。お前の気持ちは有難いと思うし、その努力はずっとみてきたから知ってる。でもな、それとこれは話が違うだろ。お前が恩を返すのと、京介が金を出すと言うことは別問題でさ…」
『解ってねえじゃん!お前何年俺とつるんでんだよ!全然わかってねえ!』
「落ち着けって、お前今気が立ってるから少し冷静に…あ、切られた…」
まっさんは切られたスマホを置いて、ー拗らせたわ…ーと苦笑い。
「随分激怒ってたなぁ…」
呑気に銀次がビールを煽る。
てつやがあんなに怒るところは実はみんなあまりみたことがない。
目標にしてる人がいつも笑っていたからと、いつでも笑顔でいるようにしているようなやつだ。しかしそれは以前からで、本当に怒る姿はそうそうなかった。
ただ今回はやはり、京介のことに関してだからだろうなと誰もが思う。
これだって十分公開惚気だよな…とさえ思えてくる。
「てつや別れるとか言ってたんか…」
京介の顔が蒼白になっている
「馬鹿だな、そんなわけねえだろ…てつやだぞ、ハッタリだよ。お前が折れれば何事もなくみたいなこと言ったんで、ちょいとつついた」
「お前あんま刺激すんなよな〜」
ずっと銀次はのほほんさん。この2人が別れることなんかは『絶対に無い』と信じてるから。この世に絶対はないと言う真理を超えてもそこは絶対なのだ。
「はぁあ〜〜〜〜」
京介がテーブルに突っ伏してため息をつく。
「なんでこんなことで拗れるんだよ〜」
「ほんとになあ〜」
いつも飄々としてるまっさんは、今も飄々と同調してくれた。こんなことでなあ…
「そういえば明日飲むことになってたじゃん?てつやくるかな。お前は?」
「俺は今日お前らに話聞いてもらえたから、明日はてつやの話聞いてやって。俺は折れる気ないと言うのは心に刻んどいてな」
「まあ、そこはな…折れられないところだよな、うん」
「でもてつや来ねえんじゃないかな明日。銀次、後でさりげに誘っといて」
「わかった。最悪俺と2人だけってことになるかもな〜まっさんも嫌われ組だ」
ニシシと笑って、銀次は焼き鳥を一本手に取った。
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