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第4話 ソファーの汚れは気にするのかよ! 誤差だろ

「……え?」  ごつい指が丁寧に、俺の顔にかかる前髪を左右にかき分けてくる。 「名前。学生証見たけど、あれ弟のなんだろ?」 「……。……っ」 「聞こえねぇよ」  かぷっと耳を甘噛みされる。 「ひい! やめて。くすぐったい!」 「じゃあ、教えろ」  逞しい腕に抱きしめられ動けないのに、ぺろぺろと耳を舐められる。 「ひい……っ。ひい」 「なーまーえーは?」  耳元で喋られ、肩が震える。 「っ。……ふじ、ゆき」 「どんな字?」 「藤の花の藤に、り、旅行の行」 「はあー。渋いな」  うげえっと苦いものを噛んだような顔をされ、反射的に頬を膨らます。 「じゃあ、あんたは何て言うんだよ!」 「ぷっ」  ふくれっ面を見て笑われた。顔を背け腕で隠してるけど、 「笑った顔、かわいいな……」  言ってから気づく。男相手に何を言っているんだ。しかもこんな熊男に。我ながら正気を疑う。 「……へぇ?」  笑みを途端に冷ややかなものに変えた男に、藤行は命の危機を感じて青ざめる。  しかし暴力は振るわれなかった。 「俺が可愛いか? とんだ眼球イカレ野郎だな……。俺は伸一郎。どうせ忘れるだろうし。覚えなくていいぜ」  しん、いち、ろう――……  心の中で反芻する。 「あんた、よく人の名前どうこう言えたな」 「うるせえな」  黙れと言いたげに、再び唇を奪いにくる。  軽く触れて、離れて、物足りないキスを繰り返す。 (いやいや! 物足りないって、何考えてんの俺)  顔が熱い。せめて考えないようにしているのに、こんな調子では自分が何をされているか嫌でも思い知らされる。 「あ……」  やがて唇が首筋に落ちる。幾度も重ねられる唇の愛撫が途方もなく優しくて、一瞬、恋人にでもなったかのような錯覚をしてしまう。 (そんなわけっ。こんな汚部屋男に!) 「なに考え事してんだ?」  ぐいっと前髪をかき上げられた。  閉ざしていた目を開けると、不機嫌そうな面が飛び込んでくる。 「俺に集中しろ」  伸一郎の深い色の双眸が、藤行をまっすぐに映している。  な、なんだよ。アニメ見てていいとか言ったくせに。強引なうえに気分屋かよ。 「集中したく、ないんですけど……」 「面白いな。お前」  あー! あー! 今ので萎えてくれると思ったのに。 「よし。燃えてきた。余計な考え事できないようにしてやるよ」 (燃やさないで水かけて。鎮火してください!)  心の声が届くはずもなく。伸一郎は低い声で呟きながら、シャツの上から手のひらを這わせる。さきほどいじられたせいか、薄い布の上からでも尖りが透けて分かる。  親指で乳首を押され、目縁を震わせた。 「ん……だ、から、そこ……。気持ち悪いって……」 「すぐに良くなる」  ならないと言いかけた藤行の唇を、含み笑いを浮かべた伸一郎が唇で塞ぐ。 (何回キスするんだよ!)  舌を絡めながら、乳首を摘み上げられる。  びくんと背中がソファーから浮く。 「んだよ。気持ち悪いって言ってる割に、硬くなってんなぁ?」 「知らないよ……んっ」  からかうように乳首を引っ掻かかれ、甘い声が出た。聞かれたくなくて、自分の手を噛んで耐える。 「噛むな」  手首を掴まれ、歯から皮膚が離れる。 「……なんだよ。あんたに関係ないだろ」 「そうか。そんなに噛みたいのか」  何を思ったのか、男は指を口内に突っ込んできた。 「オエッ?」 「ほら。存分にしゃぶれよ。その歳で指しゃぶりしたいなんて、恥ずかしい奴」 「んゃ、ん! やめ、あっ、んう」  くちゅくちゅと口の中をかき混ぜられる。その間ももう片方の手が胸をいじめてくる。 「う、んうっ。や、め、ぉ」  口内の指が二本に増える。  唾液を掻き出され、時には舌を摘み、臍をくすぐる。 「がっぁ……あぁ、んああぁ、もう、ああ」 「間抜けな顔」  口が閉じられず溢れた唾液が顎に伝う。 「やめ……」 「おい。ソファーに涎落とすなよ」 「じゃあやめろよ! っ、ああ!」  指に噛みついてやりたいのに、乳首を弾かれるたびに甘い声を上げさせられる。力が入らなくなってきていた。 「そろそろいいか?」  男のささくれ立った手がすぃっと腹の上を滑り、股間をまさぐる。甘酸っぱい刺激にびくっと腰が揺れる。 「んぐっ」 「ズボン脱がすぞ」  ずり下げられ、下着が露わになる。安物のボクサーパンツ。男はそれを見て安堵の息を吐いた。 「良かった。下着がキャラものだったら流石に萎えてたわ……」 「萎えろ! 今すぐ」  指が引き抜かれたので思いをぶつける。自転車をこぐように足で暴れるもあっさり押さえつけられ、下着まで剥かれた。くそう。アロエちゃんパンツを履いていなかったばかりにシャツ一枚にされた。  下着がなくなり押さえつけるものがなくなったソレは、蜜を零して中途半端に反りあがっている。 「なんだよ。感じてるじゃねーか」  伸一郎の指が無遠慮に触ってくる。 「ひぃ、ぁ、う……やめ」  付け根から先端までツゥっと撫でられ、顎がのけ反った。 「やあ! あ、さわ……んん、なあぁ」 「なんだよ。まだ指二本しか使ってないぜ?」 「や、あっあ、あ。んああっ!」  敏感な先端の窪みに指を押し込まれると魚のように跳ねた。胸と違ってソコはどうしても感じてしまう。  他人に触れられるのも初めてだ。しかもそれが男だったなんて、想像もしていなかった。隠すように擦り合わせた太ももを、無駄なあがきだと左右に開かれる。 「うわああ! 見っっるな」  自分ですらあまり見たことない秘部を晒される羞恥に顔を赤くして叫ぶも、そんなことでやめてくれる男ではないようだ。恥ずかしい場所を手で隠そうとするが落ちていた帯のようなもので両手を縛られる。 「し、縛らなくても……」  胸の上で手首をクロスさせた状態だ。引っ張ってみるもまったく緩まない。 「嫌なら暴れるなよ」 「この状況で暴れない奴いないだろ」  う、うわあー。やだやだやだ。 「せめてシャワー浴びさしてくれよ……汚い、よ?」  男は呆れた様子で首の後ろを掻く。 「風呂場に入る勇気あるのか?」  言われてみれば。  汚部屋の浴室なんて想像もしたくない。

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