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第9話

 着ている服はハイブランドのデニムやジャケット、ロングコートで、色は白か黒、灰色が多かった。シルバーの指輪やネックレスをいくつも付けていて、画面からは富を感じた。容姿も金も持っている若者が、なぜこのような動画配信をしているのか気になった。よく、友達や先輩からはクズ系イケメンと呼ばれていると動画で話していたっけ。由羽はエースくんの瞳が好きだった。ひと目でDomとわかるような、底冷えした瞳。真黒の瞳の中に吸い込まれそうになる。声も、低くて耳触りのいいものだった。掠れた声でReward(ご褒美)をもらえると、男相手なのに何故かどきりとしたものだ。これは手の届かないからのReward(ご褒美)だから嬉しくなるんだ。きっとそう、と区切りをつけていた。  ハッとしてテレビを見る。意識が少し脱線していたようだ。佐藤医師は新しいパネルを示していた。 『Domは、Command(指示)と呼ばれる命令をSubに与えることで、自身の支配欲を満たすことができます。SubもCommandを受けることで、全幅の信頼をDomに示すことができ、満たされた気持ちになれます。時に、DomからのCommandに従ったSubはSub spaceと呼ばれる恍惚状態に陥ることがあります。これは、Domに心と身体が完全に支配されている感覚によって引き起こされるSubの一種の快楽状態です。信頼しているDomから褒められたり、躾られたり、お仕置されたときに、嬉しくて頭がお花畑状態になるのです。しかしこれは、DomとSubの信頼関係があってこそのものなので、両者のどちらかが無理をしたり、Commandを強制して従えるなどする場合には起こりません。むしろ、Sub dropを誘発させかねません。Sub dropとは、SubがDomに対して信頼関係が獲得できていない状態でplayをすることで、危機感を持ったときに発生する強い不安感や焦燥感のことを指します。個人差はありますが、Subが疲労感や虚無感を覚えてしまうこともあります』  由羽はまだSub spaceやSub dropに陥ったことはない。これらは非常に相性の良いDomでなければ、Subに発生しないものとも聞く。

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