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第8話
由羽が初めてmateになったのは、高校生の頃だった。手芸部に所属していた由羽は、その時初めてキスを知った。1つ上の女性のDomの先輩で、入部した頃から弟のように可愛がってくれた女 だった。「ねえ、由羽くん。私たち相性いいんじゃない?」そう、詰め寄られて、キスされて、抱きしめられた瞬間、身体中の細胞が解放されるような恍惚とした気持ちになった。その時、自分はSubなのだと改めて認識した。初めてのplayをしてくれたのも、その先輩だった。先輩は面倒見のいい人で、2つ結びがよく似合う小柄な人だった。高校を卒業するまで付き合ったが、由羽が都内の美容専門学校に通うと同時に、「わたし、遠距離は難しいの。だから、ごめんね」と告げられ交際を終えた。彼女は父親の経営するテーラーの跡取りとして、地元で働くことが決まっていたからだった。
それ以来、由羽は短期的な関係を持てるDomとplayをしていたが、愛情のないそれに無意味さを感じて、誘われても断るようになった。たまたま、じゃけくんにSweet playを紹介されるひと月前に彼女と別れたばかりだった。由羽は女性のDomとmateだった。半年間付き合っていたが、由羽の生活パターンが彼女と合わずに会う時間がなかなか取れずに、いつのまにか浮気されていた。「わたし、他にもいいSub 見つけたから。ごめんね、由羽」と、別れを告げられるのはいつも向こうからだった。それ以来、由羽は新しいmateとなるDomを探すことを諦めた。どうせまた、同じように捨てられると弱気になり、自分から探すことをやめた。
そうして、由羽はエースくんに出逢ったのである。
Sweet playでは、主に女性のDomのplay動画やCommand動画を視聴していた。まあ、とどのつまりAVみたいな作品もあったので見たが、一瞬の快楽にしかならなかった。ある日、いつものようにランキングから動画を漁っていた由羽は運命的な出会いをする。それが、年間ランキング殿堂入りDomと称されたエースくんの動画だった。最初は男のDomのCommandやplayってどんなだろと軽い気持ちで視聴した。しかし、エースくんの声や、仕草や話し方、容姿にいつのまにか惹かれていた。
エースくんは鮮やかな黒髪をシースルーマッシュにした男の子だった。年齢は非公開だったが、喋りや仕草から20代前半くらいだろうと思った。
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