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第20話 推しにめろめろ
「ふう。今日も1日がんばったあ」
寝る前のベッドで大きく伸びをする。部屋にお香を焚いてリラックスタイムの始まりだ。ヨガマットの上でふくらはぎのマッサージをしていると、スマホ画面が通知で光った。ちら、と期待を込めて見ると牛丼屋さんのクーポン情報のようだった。由羽は少し肩を落としてマッサージを続ける。
「エースくんから連絡来ないかなあ。俺からいくのはちょっと敷居が高いっつうか……忙しそうだから申し訳ないし」
エースくんとはあの日以来、3日間連絡が来なかった。そんな独り身社会人の悲しい呟きにスマホがパッと光る。目を向ければ、エースくんのアイコンが浮かんでいた。すぐにタップしてメッセージを開く。
『返信遅れてごめん。仕事が忙しくて』
そうか。仕事が忙しいなら仕方ない。由羽はぽちぽちと返事を返す。
『大丈夫ですよ! お仕事お疲れ様です』
『ありがとう。由羽もおつかれさまだよ』
やさしいなあ……。やさしくて、かっこよくて、少しえっちで……こんなに完璧な人見たことない。そんなふうにとろけていると、エースくんから質問が届いた。
『もうそろそろハロウィンだね。仮装とかする?』
由羽は、首を横に振りながら返事を打つ。
『いえ、仮装とかしたことないです。エースくんはするんですか?』
『うん。する予定。Sweet playの配信のときに仮装しようかなって。何がいいと思う?』
え。意見を求められてる? 推しに?
由羽は去年じゃけくんが仮装していたキャラクターを思い出す。確かそれを着て街でハロウィンを楽しんでいたと聞いている。
『SWATとか? 警察みたいなコスプレのやつが男女受けいいみたいです』
『あーね。たしたし』
由羽はここで気になったことを質問することにした。
『あの、たしたしってどういう意味ですか?』
『たしかに、の僕流の言葉』
主よ。彼は言葉すらも自分流にしてしまえるそうです。
『おもしろいですね笑』
『由羽がおもしろいって思ってくれるなら嬉しい』
きゅゅゅうん、と胸が高鳴る。俺は童貞かよ! と自ら尻を叩く。 そして俺、推しにちょろすぎるだろ。推しの行動や言葉がなんでもかわいく見えてくる。
『由羽の声聴きたいな』
甘えるようなメッセージが届いた。勇気を振り絞り、メッセージを送る。
『俺もエースくんの声聞きたいです』
『じゃあ通話しよ。今いける?』
由羽は今にも舞い上がりそうなほど嬉しくなる。
『今いけますっ』
『よかった。じゃあかけるね』
ほどなくして、スマホ画面に通話画面が浮かぶ。由羽は1つ深呼吸をしてから、画面をタップしスマホを耳に押し当てた。
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