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第19話 推しDomと繋がりまして、秋。

 町はすっかりハロウィンに色めきたっている。由羽の働くyourfでも、内装をハロウィン仕様に飾り付けをしているところだった。営業後、由羽はアシスタントの 원 폼(ウォン・ポム)と一緒に店内のフロントに蜘蛛の巣の形をした編み物を貼り付けたり、マントルピースの中ににっこり笑うかぼちゃのオブジェと紅いりんごを忍ばせていた。 「由羽先輩っ。見てください。こんなのはどうですか?」  ウォン・ポムがひらひらと手を招いて飾り付けた1部を見せてくれる。彼は韓国からの留学生で就労ビザで日本に住んでいるyourfのアシスタントの1人だ。身長が185センチ近くあり、彼と話す時は少し目線を上げることが常であった。由羽も日本では高身長と呼ばれる部類の181センチで、高校時代からこの高さだからか女の子に異様にモテててきたと自負している。 「おっ。いいじゃん。やっぱハロウィンは骸骨もないとね」 「ですよね!」  由羽の目線の先には、骸骨の頭の形をしたオブジェが見えた。ウォン・ポムはそれを、SNS撮影スペースの壁際にこっそり置いていた。隅っこのほうにあるので、見つけた人はぎょっとするに違いない。遊び心のある彼らしいアイディアだと感心していると、ウォン・ポムが「あのう」とおずおずと声をかけてきた。 「どしたの?」  ウォン・ポムは長い睫毛をぱちぱちとさせながら、むむむ、と口を噤んでいる。  どうしたんだろう。何か言いにくいこと?  由羽は少し彼からの言葉を待つことにした。街で困っている様子の人や、迷子っぽい人に対して由羽はついお節介とも捉えかねないくらい優しく接してしまう。人助けと思えば良いのだが、仕事となるとそうはいかない。アシスタント歴1年目のウォン・ポムには、自ら上司に質問をしたり、確認をしたり、報連相をさせることが必要なのだ。だから由羽はこうして自分から問いかけたいのを我慢して、彼からの反応を待っているのだ。  助けたいけど助けちゃダメってソワソワするんだよなあ……。 「由羽先輩にダウンパーマかけてもらってもいいですか……? あとっ、カラーとトリートメントの勉強のために由羽先輩に僕の施術をお願いしたくて……!」  大柄な身体に似合わずぺこり、と深くお辞儀をするウォン・ポムを見て由羽はくすり、と忍び笑いを洩らす。まるでアシスタント時代の自分と同じような行動をしているからだった。由羽もアシスタントの頃は、当時の先輩にカットやパーマ、カラー、トリートメントをお願いしていたものだ。それが今度は自分が応える側になるようになったんだと思うと感慨深い。 「了解。いつにする?」 「ホントですか!? ありがとうございますっ。そうしたら、明後日の水曜日の午前中でお願いします」 「おっけい。その日は予約も少し落ち着いてるから俺が施術する。寝坊するなよー」  由羽が少し先輩風を吹かせて茶化すと 「わあ。嬉しいです。そんな大事な日に寝坊なんかしませんっ」  と、今にも音符が浮かぶような笑顔のウォン・ポムの顔ににこりと微笑み返した。すると、 「ーー……っ」  ウォン・ポムは耳を紅くさせてそそくさと退勤準備を始めてしまった。

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