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第68話 推しとクリスマスデート

「わあ。すごい人いっぱいだ」  由羽は横浜駅前に待ち合わせの時間の5分前に到着した。クリスマスイブ当日とあってか、どこもかしこもカップルだらけだ。ファミリーで来ている人も多い。由羽は人の波に飲まれないように駅の端で希逢を待つ。今日のクリスマスデートのために、由羽は通っているピラティス教室で鍛えた身体を惜しみなく服に合わせた。気温が10℃を下回る今日は、裏起毛の黒のスラックスに、北欧編みのニットを着ている。正面にサンタクロースのシルエットの模様があり今日着ていくにはぴったりだと思ったのだ。寒さがこたえるためカイロとホワイトのもふもふなマフラーを巻いている。今日は髪の毛をハーフアップにして銀色のバレッタでとめた。まとまりがよく顔周りがすっきりと見える。由羽は手持ち鏡で何度もメイク崩れがないか確認する。今日は大人っぽいシャンパンゴールドのアイシャドウを塗った。涙袋はいつものようにぷっくりとさせ、大粒のラメをのせた。アイラインは垂れハネラインで地雷ラインもアイシャドウでしっかりぼかしてある。白い頬には血色感のある紅いチークを塗り、リップは真っ赤でジューシーなアップルカラーのもの。上からティントをM字型にのせて艶っぽさを出している。  よし。メイク崩れなし! 髪の毛もちゃんとまとまってる。パーフェクト!  よしっ、と小さくガッツポーズをしていると希逢から電話がかかってきた。 「今横浜駅ついた。どの辺にいる?」 「駅前のニャンニャンイレブンの端っこにいるよ」 「どんな服着てる?」 「黒いコートにサンタさんのシルエットの柄のニットに黒のスラックスにバッグはーー」 「見つけた」  そ、と横から伸びてきた手が由羽の肩に乗せられた。はっとして見上げれば希逢がじっと見下ろしてきていた。あまりにもじっくり見つめられているので、息ができない。なんだろ。なんかメイク変だったかな。メイク濃すぎた? 気合い入れてるのバレバレかな……。 「……美人すぎるから他のやつに見せたくないんだけど」 「えっ。ほんと?」  新しい褒め方だなと思って目を瞬かせれば、希逢は由羽の手をとって力強く握る。 「ほんとだよ。待ち合わせしてるときから目立ちまくりだから。由羽はオーラが違うのー」 「オーラ? どんな感じの?」 「人を惚れさせるオーラ。さ、行こ」  ぽぽっと由羽の頬に紅が差す。オーラなんてあまり信じたことないけど、これは喜んでいいのかな? それにしても……希逢くんは今日もかっこよくてお洒落だなあ。濃い深緑のスラックスに黒い革靴。磨きあげられててピカピカだあ。白いシャギーニットは触り心地良さそう。黒の綺麗めコートも似合ってる。こんな人の隣を歩いてもいいんだろうか……。  由羽がぽうっと見とれていると、クリスマスマーケットの開催されている入口のゲートに辿り着いた。駅前よりも人が多く、ぼんやりとしていたらはぐれてしまいそうだ。由羽はきゅ、と希逢の手を固く握る。すると更に力強く握り返してくれた。その手の温かさが今は幸せで。

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