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第69話

「ほらこれ見ろよ」  と希逢が出店を指さす。そこにはスノードームやクリスマスツリーに飾るオーナメントが所狭しと飾られていた。由羽はそれらの眩い輝きを目をキラキラさせて見とれていた。その様子を見られていたのか、希逢がふふ、と微笑したのを見て嬉しくなる。  なんだろ。これほんとにデートなんだ。大好きな希逢くんとクリスマスデート。ほんと、嬉しい。 「由羽に似合いそうだな、これ」  出店の商品棚から希逢はマグカップを手に取り由羽の顔と見比べている。マグカップの取っ手はハートの形になっていて握りやすそうだ。全体が紅いカラーに染まっていて、上部はメルティスノーのように白い模様が浮かんでいる。かわいらしいトナカイのミニキャラクターとサンタクロースが描かれており、クリスマスにぴったりだ。 「かわいいっ。ちょうどマグカップ新しいの欲しかったんだよね。買おうかな」  由羽がゴソゴソと黒の革ショルダーバッグから財布を取り出そうとすると、その手を希逢に遮られた。彼は出店の店員に声をかける。 「すみません。これと同じ柄のマグカップを2つ購入したいです」  すると、外国人の店主がにこにこと希逢と由羽を見て微笑み大きく頷いた。てきぱきとマグカップ2つをそれぞれ割れないようにプチプチで包んで小さな箱に入れ、紙袋に入れてくれる。希逢は支払いを済ませて由羽の元へ帰ってきた。 「はい。これ。俺とおそろな」 「えっ。いいの?」 「今日の記念品だと思えよ。俺もちょうどマグカップ欲しかったし」 「そうなんだ。ありがと……」  由羽は照れてしまって希逢の顔を直視することができなかった。それからは並木道のように連なっている出店を見て回り、赤レンガ倉庫を彩るイルミネーションに感激していた。クリスマスマーケットの中央には3メートル程の大きなクリスマスツリーが様々なオーナメントで飾られており撮影スポットになっている。仲睦まじくカップル達が写真を撮っている。いいな、と由羽は思った。けれどサロンモデルをしていて、Sweet playの配信者をしている希逢は身バレをしたくないだろうから一緒に写真は撮れないだろうな。そう思って諦めかけた瞬間だった。ちょうどクリスマスツリーの前にいる人達がはけて、空間ができた。 「すみません。2枚写真撮ってもらえませんか」  はっとして振り返ると、希逢が自身のスマホを同じお客さんに手渡してから由羽のもとへ足早に近づいてきた。おろおろしている由羽の肩を抱き寄せ、スペースの開けたクリスマスツリーの下に行く。カメラマンをしてくれるお客さんがこちらにスマホを向けている。 「ほら笑って」 「あっ、うん」  希逢がこっそりと由羽の手を繋いだ。由羽もしっかりと握り返す。ぎゅ、ぎゅと手のひらから返事が来た。「大丈夫だ」と言うように希逢は落ち着き払ってカメラに視線を向けている。由羽もそれにならって緊張でガチガチの頬をなんとか緩めた。 「お兄さんたちーいきますよー! ハイ、チーズ」  カメラマンさんの音頭でパシャとカメラのシャッター音が鳴る。由羽は自分が上手く笑えていただろうかと心配になっていた。すると希逢が不意に由羽の腰に手を回してきた。 「ほらカメラ見て。モデルみたいに背筋伸ばしてキメ顔してごらん」  ぼそっと至近距離で囁かれ耳が熱い。由羽は唇を真一文字に結んで少し目を細める。 「ラストいきまーす! ハイ、チーズ」  パシャと再度シャッター音が鳴る。 「ありがとうございました」  希逢がスマホを取りに行っている間、由羽はぺこりとカメラマンをしてくれたお客さんに頭を下げた。その時、クリスマスツリーの近くにはたくさんの女性が集まってきていた。その人混みの中の言葉にどきりとする。 「ねえねえあの人芸能人? 黒い髪の人。めっちゃ背高くない? 180センチはありそう。イケメンだね。声掛けて一緒に写真撮ってもらおうよお」  続けざまに他の女性の声も聞こえる。 「2人ともモデルみたいだね。高身長イケメン最高。シルバーと水色の髪の人もスタイル神ってるね。女の人なのかな? 男の人なのかな? どちらにせよ中性美人だよね。はあ……眼福」  ざわざわと人が集まり始めている。由羽は希逢が身バレするのではないかと焦り、駆け寄った。

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