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第70話 推しに告白されました
「ねえ、人が集まっちゃったからそろそろ行こっ」
「ん? ああ。すげえ集まってきてるな。じゃあ走るか」
ぱしっと固く繋いだ手を引かれる。
「わっ。走るの? 俺足速くないよ」
「っはは。大丈夫だって。俺がついてる」
くしゃっとした笑顔を見て由羽も貰い笑いをする。人混みから飛び出して2人で走る。冬の夜風が頬を撫でていき、息が上がる。クリスマスマーケットからだいぶ離れたところで、ようやく希逢が足を止めた。由羽ははあはあと息を荒らげて呼吸を整える。マグカップの袋は希逢が持っていてくれたようだ。
海辺に設けられたベンチに腰掛け、ぼうっと夜の海を眺めていた。白い息が上がり紺碧の空に溶けていく。呼吸が落ち着いたところで希逢がぽつりと言葉を洩らす。
「由羽」
「ん?」
希逢の頬は若干紅い。由羽はそれは今まで猛ダッシュしてきたからだろうと思い込んでいた。
「こっち向けよ」
突然、希逢の手が由羽の顎を支える。そうしてそのままゆっくりと唇が引き寄せられた。ふに、とした感触は柔らかく温かくて安心する。
「……」
軽く、触れるだけのキス。そっと希逢の顔が離れていく。由羽の心臓はどくんどくんと跳ねている。それがバレないように平常心を保つ。
「俺、今日で18歳になった」
真剣な瞳で伝えられ、その先の言葉に期待してしまう。由羽は静かに自分の拳を握りしめる。
「だから今夜、由羽を抱く」
「……っ」
「いい?」
由羽の頬が林檎のように紅く染まった。こくん、と小さく頷く。
「そ。よかった」
ほっと緊張の糸が緩むみたいにして、希逢が肩を撫で下ろした。その表情は初めて見るくらい綺麗な横顔だった。
「希逢くん……」
由羽は口をぱくぱくとさせながら、希逢に呼びかける。「ん?」と優しく見守ってくれる瞳に吸い込まれてしまいそうだ。
「……」
真っ直ぐに見つめられ、由羽は言葉が出てこない。言いたいことは山ほどあるのに、緊張して口の中がからからに乾燥している。希逢の瞳は月の光に照らされてキラキラと反射している。銀箔のように。
「俺が先に言いたいから口をつむってて」
由羽は静かに頷いた。希逢が由羽の手をとる。その手は温かくてごつごつしていて大きい。
「好きだ」
「っ」
「由羽のこと好き」
「……っふ」
「なんで泣くの?」
いつものように意地悪な目だ。由羽は口の中で嗚咽を抑えようとする。口元に手をあて声を押し殺す。瞳からは幾筋もの光の粒が流れていった。
「嬉しいからっ……だよ」
ようやく絞り出した言葉は夜風にさらわれていく。どうしよう涙が止まんない。アイメイクぐちゃぐちゃになっちゃう。
「んむ」
希逢が由羽の唇に蓋をする。唇をとんとんと舌でノックされそれを受け容れる。口内を吸われ、舐められ、歯列をなぞられて由羽は背筋がゾクゾクする。いつまでそうしていただろうか。5分なのか、30分なのか。由羽には時間の感覚がわからないほどに濃密な時間のように感じた。そしてそれが心地よくて安心して。ずっとこのままキスをしていたいとさえ思ってしまう。すうっと希逢の唇が離れた。銀の糸がつながって、垂れた。
「ほら。泣きやんだ」
「……あ」
気づけば涙は止まり、心音も安定していた。
「由羽が泣いてたら俺が泣きやませてあげる。だからずっと一緒にいて」
「……うん」
今度は勇気を振り絞って由羽から希逢に抱きついた。ぎゅうっと背中に手をまわせば、希逢も由羽の背中へ手をまわして抱きしめてくれる。その温もりが心地よくてそのまま目を閉じて希逢の肩に頭を埋めた。
神様。一生俺と希逢が離れませんように。
そんな願いを胸に希逢の胸に抱かれた。
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