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11 休暇が明けて
発情期休暇が明けて、久しぶりの出勤だ。今日からは日勤で、まずは署に行って朝礼に参加してから交番へ向かう。
けど、朝礼でαの同僚から遠巻きにされているのが、あからさま過ぎて笑えてくる。たぶん、裕也くんのフェロモンが濃く残っているせいだろう。それでいて遠くからヒソヒソされているのは、俺は珍獣かなにかになったのか?
朝から気疲れしてしまっていると、背中を誰かにバン! と叩かれた。
「聞いたぞ、なんか発情期大変だったらしいな?」
そう声をかけてきたのは、同僚のΩ警察官である鈴木だ。
「まぁな、おかげでコレを着けにゃならん」
俺が制服のシャツの下にチラッと見えるチョーカーを指差すと、鈴木がおかしそうに笑う。
「チョーカー着けるくらいにか、やべぇな。どんなαにヒットしちまったんだ?」
「ははは、教えんぞ?」
Ωらしい言い様に、俺も笑って返す。
「まあ知ってるけど、寮の前ですっげぇイケメンの若い男に張られていたってな。アレだろ、お前の彼氏って」
「知っているなら聞くんじゃない」
しかし鈴木にトドメをさされてしまった。くそぅ、やっぱり噂になっていたか。これからしばらく署内で地獄かもしれん。
そんな会話をしていた俺たちに、近付いてくる奴がいる。
「高瀬さん、おはようございます!」
緊張した面持ちで挨拶してきたのは、田中だ。
「おっす田中、じゃあ行くか。じゃあな鈴木」
「お~、今度会わせろよ?」
「ぜってぇ嫌だね」
鈴木と軽口を言い合って別れると、田中と今日の業務の確認をしながらパトカーへ向かう。
パトカーを発進させて二人だけになったところで、田中が控えめに尋ねてきた。
「……あの、俺、なんか嫌なことを言ったことありましたかね?」
おぉ、これを自分から聞いてくるのは、ちょっとした成長だな。自ら教材になった甲斐があるってもんだ。
「ちょいちょい失言かもしれないことはあったが、決定的なのはなかったかな。これから気を付けてくれればいい」
「はい、そうします」
なんで隠していたんだとか聞かないのは、警察官としては見所があるだろう。後でオヤジさんにも教えてやらなきゃな。
「そうだ、あの時の奴はやっぱり違法薬物の売人でした。署じゃあアイツから芋蔓やろうって張り切っていますよ」
「そりゃあ、勘付いた裕也くんたちのお手柄だったな」
こうして話をしていると、あっという間に交番に到着だ。
夜勤組のチームが俺を待ちかねたとでもいうように、ニヤニヤしていた。
「シゲさんの店の小僧に喰われたんだって?」
「年下趣味だったんだな、お前ってさ」
αの東と、その相方のβの下川が好奇心いっぱいの顔で言うが、東はずいぶん離れている。この二人は俺と同期なので、遠慮がないんだ。
「悪いけど俺、今高瀬に近付きたくないわ」
「それ、朝からさんざんやられたよ。ってか、なら絡まずにさっさと帰れよ。朝イチで気遣いを見せた田中を見習えお前らは」
鼻をつまんでシッシッと犬でも追い払うような仕草をする東に、俺はシッシッをやり返す。
「素直に『おめでとう』が言えねぇたぁ、ガキだなぁ」
同じく交代のオヤジさんが呆れつつも大あくびをしている。
「じゃあ高瀬、あとは頼むな」
「はいオヤジさん、お疲れ様でした」
こうしてなんだかんだあったものの、俺の日常が始まった。
夜勤組の日誌をチェックしてから業務をこなし、見回りをしてと、いつもの仕事を田中と二人で淡々としていると、すぐに昼休憩になる。
「こんにちわ」
田中と交代で昼食を取ろうと、俺が先に休憩に入ろうとしたところに、裕也くんが交番に現れた。
「こんにちは、どうしました?」
俺は最後に会った時の車内でのキスを思い出してしまい、顔を赤らめないように苦心しながら、応対のテンプレ台詞を口にする。
「コレ」
すると裕也くんは手に持った紙袋をガサガサと振ってみせた。
「チョーカー、早めに渡そうと思った」
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