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第17話 ありがとう

 消えてしまった芯の姿を探すように、蒼は紅を見詰めていた。  紅の中に、確かに芯の魂を感じる。   「蒼……、蒼」  何度か名前を呼ばれて、蒼は顔を上げた。 「ごめんなさい、紅様。僕は霊力が使えるのに、芯を守れませんでした。大怪我させて、痛い思いさせた。本当なら、こんなに早く溶けるはずじゃなかったのに。もっと一緒に居られたのに」  話すほど涙が流れて、止まらない。  蒼の体を包んで、紅が抱き締めた。 「蒼のせいじゃないよ。助けに来るのが遅くなって、ごめん。俺がもっと早くに戻っていたら、芯に大怪我させなかったし、蒼に無理もさせなかった」  蒼は何度も首を振った。   「蒼は充分、芯を守ってくれたよ。あのまま二人とも喰われていても不思議じゃなかった。芯が蒼を守ってくれたから、蒼は生きてくれた。蒼が頑張ってくれたから、芯は俺に溶けて逝けたんだよ」  逝けた、という表現に、蒼は顔を上げた。  紅が、悲しそうに笑んだ。 「本当は、蒼の目の前で芯を喰いたくなかったんだ。蒼には他の子たちのように妖術をかけていないし、芯とは仲が良かったから、お別れは余計に辛かったろう。ごめんね」 「逝けた」とか「喰う」という言葉を紅は滅多に使わない。  特に、妖術をかけている子の前では「溶ける」とか「一つになる」という表現をしていた。 (もう、隠す必要がなくなったから。妖術が掛かっていない僕しか、いないから。芯が、いないから)  本当に芯は死んでしまったのだと、感じた。 「僕じゃ……、僕じゃ、芯の傷は治せませんでした。病気も、治せません。気持ち良く、楽に死なせても、あげられない。紅様にしか、出来ない」 「蒼……」  心配そうな指が蒼を抱き寄せる。  蒼は紅の着物を握り締めて、縋り付いた。 「紅様は、芯を救ってくれた。最期に芯が望んだ幸せを、くれた。ありがとう、ございました。理研の子を、たくさん、救ってくれて、ありがとう、紅様……」  きっと紅は、こんな風に何人も、何十人も、余命の短い理研の子供たちを喰って、見送ってきたのだ。  痛みもなく、辛くもなく、気持ち良く幸せだったと思いながら、死んでいけるように。  流れる涙が紅の着物に沁み込んでいく。  まるで涙を拭うように、紅は蒼の顔を自分の着物に押し付けた。 「俺は、蒼の言葉に救ってもらったよ。只、喰ってきただけの俺に、お礼をくれて、ありがとう」  蒼は何度も首を振った。  ただの食事だと、紅自身が思っていなかったと、蒼は知っている。  買った子供たちを可愛がって、慈しんで弔ってきたのだと、知っている。  その度に、自分の心を(ひさ)いできたのだと、感じている。 「僕は死なないで、紅様の隣に居ます。紅様のお腹が空かないように、心が悲しくならないように、幸せになれるように。幸せを諦めないって、芯と約束したから」  抱いてくれる手を握って、蒼は顔を上げた。 「芯が願ったのは、蒼の幸せだよ。俺の隣にいて、蒼は幸せなの?」  蒼は握った紅の手を自分の頬に当てた。 「今は、紅様の手を握っていたいです。紅様が笑ってくれたら、僕も嬉しいから。幸せがどんなものか、僕にはわからないけど、紅様の隣で見付けたいです」  幸せなんて感情も状態も、蒼は知らない。   蒼の今までの人生には、なかった言葉だったから。  けれど、紅と一緒なら、見付けられる気がした。 「紅様と一緒に、芯との約束を果たします」  泣き顔のまま微笑んで、蒼は紅の手の甲に口付けた。  ニコがしてくれたように、祝福を籠めるつもりで、霊力を込めたキスをした。  紅の手が大きく跳ねた。  見上げると、驚いたような目が蒼を見下ろしていた。 「蒼……。やっぱり、蒼は……」  紅が言葉を止めて、表情を改めた。  いつものように微笑んで、額にキスを返してくれた。 「そうだね。蒼が一緒が良いと思ってくれるなら、俺は蒼を手放さない。何があっても、幸せになろう」  強く握ってくれる手も、抱き締めてくれる腕も、嬉しかった。  紅の中に感じる芯の魂が、見守ってくれていると思えた。

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