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おまけ

 明日は水曜で、直樹は休みだ。  あれから1ヶ月、同じベッドで眠ってきた。  そろそろいいだろう、大丈夫だ、と英治は思った。  20時前に帰宅した英治を見て、なんだおまえと直樹は言った。なんだおまえじゃあない。仕事を切り上げて帰ってきたわけだ。直樹が日勤だということも、仕事の状況が比較的マシだということも、直接聞いて把握していた。ありもので済まそうと思ってたと言う直樹に、肉買ってきたから一緒に食おうと言った。2人で料理をして2人で食事をした。完璧だと思った。なんとなく会話をし、順番に風呂に入った後、ここだと思って、直樹の腰を引き寄せた。 「おい」  つぶやいた唇に唇を押し当てる。上唇と下唇とが離れている。舌を差し込む。垂れ下がっていた腕が首に回される。口の中に控えていたぬるい舌が伸びあがってきて、こちらの舌に絡みつく。吸い合って舐め合って、離れる。直樹が言う。 「おまえマジかよ」 「マジだよだめか」 「だめなやつの態度に見えるかよ」 「助かる」  2人して寝室に転がり込んだ時には、英治は馬鹿馬鹿しいほど昂っていた。ベッドに倒れて、お互いに相手の上半身を脱がした。きれいな体だとまた思った。今度は目を逸らさない。脇腹に手を這わせると、直樹が濃い息を吐いた。抱きしめて、自分の体で直樹を押しつぶす。耳元で息が溶ける。こんな風に呼吸する男だった。何度抱いたかしれないのにすっかり忘れていた。  首に顔をうずめて、腹の筋肉の線を撫でまわす。直樹の腕が背中に回ってきて、肩甲骨のあたりを掴む。唇にかぶりついてくる。したいようにさせる。英治の下唇を思い切り吸った後、舌を口に押し込んで上顎を舐める。その舌を今度は英治が吸う。直樹の腰が柔らかく動き始めたので、胸の先を指でつまむ。英治の体の下で腰が跳ねる。  最後に寝た時のことはあいまいだが、はじめて寝た時のことはちゃんと覚えている。顔を見た瞬間から、今すぐやりたいと思っていた。狭苦しい寝台の上、噛みつくようなキスは1、2度で、あとはひたすら繋がっていた。やるじゃんおまえ、よかったわ。あのにやついた笑顔をもう1度見たい。直樹のパンツを脱がし、下着1枚にした。 「急ぐなあおまえ」 「必死なんだよ悪いか」 「かわいげのあること言う」  下着の上から直樹の形をなぞる。もう十分やる気になっているくせに減らず口を叩くな。そのまま擦ってやると甘ったるい声を上げる。いい年をして媚びやがってと思った後、その媚びに見事に負けている自分に気づく。体を丸めて、直樹の腹筋に唇を落とす。声が聞こえ続けている。下着を脱がす。跳ね上がったペニスに唇を寄せる。 「待って。俺も」  言うなり、直樹は体を起こして英治の服をすべて脱がした。熱を持った性器が露出する。されるがままベッドに押し倒される。顔を跨がれる。目の前で屹立するペニスを口に含んだ瞬間、下半身がぬるりとした粘膜に包まれた。口の中のものを吸うと、自分のものに舌が絡みついてくる。負けてやらねえぞと思う。吸い上げながら先端に舌をねじ込み、にじみ出る液を舐めとる。食らいついてくる頭を両足で抑えて、耳元を太ももで愛撫する。陰嚢に手のひらを添え、1度口から離したペニスを唇でなぞる。直樹に強く吸い上げられて思わず声が出た。出てしまいそうなのを耐えて、直樹に息を吐かせる。  2人とも満足するまでやりあった後、また直樹を横たわらせた。膝を立てて脚を開かせ、指をローションで濡らす。 「痛かったら言えよ」 「わかってる」  直樹はそう言って深い呼吸を繰り返す。何しろ少なくとも5年ぶりのはずなのだから、苦痛があるのではないかと心配だった。開いた脚の奥に人差し指を差し込む。強く締め付けてくるのがわかる。中にあるはずの場所を探す。直樹の体がびくんと跳ねて、探り当てたとわかる。そこを指の腹で刺激しながら、入り口をゆっくりほぐしていく。 「あーそこ、やば」  首を振って言うのを聞きながら、中指、薬指と差し込む。空いた手でペニスをなでてやる。膝頭にキスをしながら中を慣らして、大丈夫かと思えたところで抜いた。  コンドームをつけたペニスを指と同じように濡らして、入り口に押し当てる。見上げてくる直樹と目が合う。両脚を脇に抱えて、中に入り込む。絡みついてくる粘膜を擦り上げるように奥に進む。直樹がだらだらと声を上げている。根元まで入りきったところで、よかったと思う。5年ぶりなのは英治も同じだ。  腰をゆるく前後に揺らし、奥を刺激する。そのたびゴム越しのペニスが擦れて、英治の息も上がっていく。 「英治、おま、えいじ」  直樹が身をよじりながら右手を差し出してくる。英治はそれを掴み返し、直樹、と言った。 「直樹、直樹」  強く締め付けられる。もう厳しいと思ったところで腰を振るのを止める。直樹が怪訝な顔でこちらを見てくる。引き抜いて言う。 「後ろの方が好きだろ」 「は、馬鹿かおまえ」  馬鹿かと言ったくせに、直樹は素直に体を反転させ、四つん這いの姿勢で尻を突き出した。腰に手をかけてまた入り込む。今度は勢いのまま奥まで。直樹の背が弓なりになり、それに英治も刺激される。できる限りの速さで、わざとらしい音を立てながら、腰を強く打ち付ける。直樹がとろけきった声で呻く。体の前に手を回し、性器を擦り上げる。 「あ、待って、やっば」 「俺もやばい」  ぎしぎしと締め付けてくるそこを必死になって突く。直樹が振り向き、体を捻るように起こして、口を半分開いて見せる。屈み込んで、そこに吸い付く。どこまでが自分なのかわからなくなるくらいに舌を絡ませ合ったあと、お互いに深く息をついたところで、もう無理、と直樹が言った。手のひらの中でペニスが震えるのがわかった。俺も、と英治は言った。  いっそ裸で眠りたいところだったが、どう考えてもまた風邪をひくと2人とも言い、体を拭って全ての服を身につけてからベッドに戻った。明かりを消そうとしたところで、直樹がにやりと笑ったので手を止めた。 「思ったより衰えてなかった。やるな」 「衰えってなんだ衰えって」 「5年も経てばそういうこともあるだろ。結果そうでもなかったって言ってんだから喜べ」  喜べと言われて素直に喜べる台詞でもない。でもなかったが、見たかった笑い顔ではあった。 「それより明日、仕事大丈夫か」 「大丈夫。衰えてないからな」  抱き寄せて口づける。直樹が抱き返してくる。ひとつ前はいつだったか忘れたなと思いながら、抱き合って眠る。

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