1 「じゃ、今日の配信はこの辺で！ちょっと配信閉めてくる」 「ほいほーい」 　軽い返事を聞き筬島颯(おさじまそう)は通話を抜けた。 　バーチャル配信者である筬島の配信画面には２Dのキャラクターが映っており、それが自身の動きに反応して右に左にと動いている。 　ママにデザインしてもらったキャラは黒・青・シルバーのグラデーションになった髪と濃紺の瞳、ロングコートを羽織るなど筬島の希望をふんだんに叶えてもらったお気に入りだ。 　キャラクターデザインをしてくれたイラストレーターをバーチャル配信者界隈ではママと呼ぶことが多い。文字通りキャラクターの生みの親ということだが、筬島のママは忙しい中初配信にもコメントをくれた優しい人だ。 　春にオーディションに合格し、諸々の下準備を終えなんとかこの秋デビューすることが出来た。 　今は大学に通いながら邑楽(おうら)ユウという名でゲームをメインに配信活動をしている。 「今日も配信見てくれてありがとうございました！いやーもうちょっといけると思ったけどなぁ…まぁ、また続きを楽しみにしてて！」 ［おつユウ～］ ［また二人のコラボ配信楽しみにしてる］ ［ホントにあるの？］ 　あるコメントが目に入ったが見なかったフリをし「またねー」と挨拶をする。 　マウスをクリックし配信を終えると筬島ははぁっと溜息を吐いた。 　――なんとか無事に終わった。 　同期である剣城央(つるぎあきら)とのコラボ配信。 　3週間ぶりだろうか。 　デビュー直後――と言ってもまだ3ヵ月も経っていないのだが――その頃は少なくとも1週間に１回はしていた。 　次はこんなことしたい、あんなことしたいと次々に案が出ていたが、その案もまだ消化できてない事の方が多い。 　それなのにコラボの間隔は徐々に開き、コメント欄は［久しぶりのコラボだー］等と流れるようになった。 　流行り廃りが激しい現代において、3週間という間隔は幾分長いらしい。 　コメントを思い出し、再びはぁ…とため息が漏れる。 　ピコン。 　スマホの通知音が鳴り、剣城からミーティングの連絡かと確認すれば、表示されているのはDMの通知。 　その通知欄には見なれない名前が表示されている。 　――誰だっけ？ 　記憶を辿ると、そういえば…となんとなく思い当たった。 　狼谷(かみや)ハルト。 　筬島が所属しているのは界隈でも中堅事務所であるルクレーヌ。そんな自事務所とは違い、ウィンターブライトと　いう大手事務所所属のバーチャル配信者だ。 　たしか1年くらい前にグループでデビューして、事務所も力を入れているのがわかるほど大々的に売り出していた気がする。 　まだデビュー前だった頃、動画のおすすめ欄に出てきていたのを思い出す。 　そんな人気配信者から何の連絡だろうと通知を開いた。