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コラボのお誘い

2 【はじめまして ウィンターブライトの狼谷ハルトといいます 突然の連絡すみません 配信、拝見しました 俺もFPSよくやるので、よければ今度コラボしませんか?】  ――コラボ?  剣城とのコラボも最近減っており、所属事務所の先輩とのコラボもまだ数える程度。  人見知りとまではいかないが、慣れるまで緊張しやすい質なこともあり、事務所外の人とコラボなんて当然したこともない。  なぜなら、デビューしてたった3ヵ月未満の新人なのだ。  毎日していることもあって配信には幾分か慣れてきたが、それでも経験したことのない方が圧倒的に多い。  そんな筬島に突然コラボのお誘い。  事務所の先輩ならいざ知らず、初対面の人となると不安が過ぎる。  動画サイトで狼谷ハルトと検索し、出てきたチャンネルを開いた。  濃紺にラベンダー色のインナーカラーが特徴の髪色に瞳はシルバーグレー。  自己紹介文には[仲間と共に異世界転移してきた魔術師団長]と書いてある。  FPSをよくやるとメッセージにあった通り、ズラリと並んだアーカイブはFPSゲームが大半を占めている。  時々パーティーゲームやオープンワールド、シューティング系のゲームもあるが、事務所内ライバーとのコラボばかり。  とりあえず…とFPSゲームの配信を見てみると、直近のランク帯は同じくらい。  時々語気が強い印象だがソロでも楽しそうにコメントを見ながら配信している。  コラボ配信ではどんな感じなのか気になったが、同事務所と初対面ではそもそも関係性が違うため比べる方がおかしいと見るのをやめた。  うーん…と首を捻りながらも、ユウは届いたDMに目をやりポチポチと文字を打つ。 【はじめまして、ルクレーヌの邑楽ユウです お誘いありがとうございます FPS好きなので一緒にやってくれると嬉しいです】  無難な文章にまとめ送信。  1分も経たないうちに通知音が鳴った。 【ありがとうございます 早速なんですが、明日どうですか?】  ――明日?  結構急だなと思いつつも、生憎、明日も1人で配信する予定しかない。  配信者あるあるなのか、事務所の先輩から急にコラボの声がかかるのも間々ある事だ。  緊張するから心の準備が…などを断る理由にしては勿体ない。 【大丈夫です】 【よかった フレンド追加お願いします ××_××××××】  送られてきたユーザー名をコミュニケーションアプリで検索しフレンド招待を送る。  すぐにフレンド追加され、メッセージが届いた。 【今時間あります?】 【はい】  そう送ればすぐボイスチャットがONになる。 「よかった。明日のコラボ前に少し話せればと思って」 「あ、はじめまして」  まさか通話するとは思ってもみなかった筬島は、思わず挨拶を返してしまった。  つい出てしまった人見知りに陰キャかよ、と心の中でツッコミを入れてしまう。 「ふっ…はじめまして」  吐息のような笑い声に顔が熱くなった。  配信を見た時も思ったが、低音で落ち着く声だ。  筬島も声が低いと言われることが多いし、自覚もある。しかしテンションが上がると上擦ってしまうことのある自身の声は性格と一緒で落ち着いてるとは言い難い。  配信者は軒並み所謂イケボ・カワボが多いが、狼谷の声は本当に良すぎると筬島は思う。  声の滑りがいいというか、なめらかというか…低音なのにカサついていないのだ。 「いい声…」 「え?」 「あ、すみません、狼谷さんの声が良くてつい…」  さっきから勝手に言葉が出てしまう。  配信を始めてから考えながら喋るようにしていたのに、ここまでポロポロ言葉が漏れるのは配信者として如何なものか。 「邑楽さんもいい声ですよね」 「ありがとうございます」  お世辞だとわかっててもこの声で言われると嬉しくなる。 「急に誘って大丈夫でした?迷惑かなとも思ったんですけど、邑楽さんのこと前から気になってたんで」 「え、そうなんですか?」  自分より先輩で、人気急上昇中の狼谷から認知されていたなんて。  驚きとともに素直に嬉しくなる。 「実は初配信見てて、いつか一緒に出来たらって思ってたんですよ」 「え、嬉しいです!でもオレ…」  言い淀んでしまうが、ここで言わないとしこりを残してしまいそうで、筬島は言葉を続けた。 「あの、実は狼谷さんから連絡もらって初めて配信を見まして…ウィンターブライトの人だって知ってはいたんですけど」 「いや、俺もまだ箱内では新人な方なんで」  気にしないで、と言外に含ませている言い方に大人だなぁと感心してしまう。 「俺たちでコラボならFPSかなって思うんですけど、APとVALOどっちがいいですか?どっちでもデュオになるけど」 「あ、ならVALOしたいです!狼谷さんとランク変わんないんで」  配信で見た感じ狼谷もかなりの時間やってるみたいだし、筬島も得意なゲームだ。  初めてのコラボだし、出来れば慣れてるゲームの方がいい。 「オッケー、じゃVALOで。夜しようと思うけど20時くらいでいい?」 「大丈夫です!」  サクサクと決まっていく予定に緊張しながらも楽しみが増していく。  今までコラボと言えば剣城か箱内の先輩ばかりで、箱外の人――いわゆる外部コラボは初めてだ。  できればまたコラボしたいと思って欲しいし、色んな人と仲良くなりたい。  事務所内で暗黙のルールがあるならそれも知っておく必要がある。  いつも箱内の先輩とコラボするノリが通じるかも分からないのだから、失礼がないようにだけしないと。  楽しみにしながらも心の中で気を引き締めた。 「あとさ」 「はい?」 「敬語なくしていかない?邑楽くんと仲良くなりたいし」  その言葉が嬉しくて、心做しか声のトーンが上がる。 「狼谷さんがいいならオレは全然!」 「俺は気にしないよ」  正直業界として後輩な筬島はどこまで距離を詰めていいのか測りかねていたので狼谷の言葉に安堵の息をついた。 「よかった…オレも、狼谷さんと仲良くなりたいから嬉しい」 「そう言ってもらえてよかった。じゃ、明日楽しみにしてる」 「うん!よろしく」  通話を終え、ホッと息をつく。  初めて話したが、狼谷は配信者の先輩として気を使ってくれ、配信を見た時の語気の強さもなく、気が利く大人といった印象だ。  連絡を見た時は不安だったが、今は楽しみに変わっている。 「楽しみだな」  気付けばさっきまでの憂鬱さは消えてしまっていた。

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