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第1話

 雷騎公国(らいきこうこく)の若き騎士隊長アレン・グランベルと、智廉国(ちれんこく)の古代遺跡(いせき)研究の俊英(しゅんえい)リオ・カルスが(ひき)いる一行(いっこう)がそこへ辿(たど)り着いた時、古代遺跡の奥深く、静かな(やみ)の中で、ひときわ異様(いよう)な輝きを(はな)つ巨大な魔法陣(まほうじん)があった。その中心には小さな魔導遺物(まどういぶつ)の像が立っている。  遺跡周辺の村の人々を、そして遺跡に(もぐ)った一行の道行きを散々(さんざん)に苦しめてきた赤黒い霧は、どうやらそれから発生しているようだった。 「これは……」  智廉国からの学者代表であるリオ・カルスは、その光景に片腕を横に上げて一行を制止(せいし)した。それから目を(すが)め、像と魔法陣の上でゆらゆらと光りながら浮かんでいる力ある(ことば)見据(みす)えた。  魔法陣の中央に配置された魔導遺物(まどういぶつ)の像は、成人した人族(ひとぞく)の男の(てのひら)に十分収まりそうなほど小さいが、古代の魔力を宿(やど)し、人を呪い殺す力を(はっ)する(みなもと)であった。本来、この像のみではこれほど強力な拡散(かくさん)力のある(のろ)いではなかったのだろう。広範囲に呪いを拡散する巨大な魔法陣が、その像を中心として天と地で(はさ)むように平行に浮かび上がっている。  その場を(おお)う赤黒い霧の中、リオ・カルスは時を()しみ、素早く魔法陣の核心(かくしん)を探り始めた。  彼の目は、一瞬で無数の(ことば)走査(そうさ)し、特に力を発する幾つかを見定める。この巨大で高密度に複雑な魔法陣と小さな像の全容(ぜんよう)をすべて読み(ほど)くには時間がかかるが、核心(かくしん)部分を解読(かいどく)し、大筋(おおすじ)を理解するにはそれで十分だった。  古代遺物(こだいいぶつ)の第一線の研究者としての知識が、魔法陣に()り込まれた呪いの凶悪(きょうあく)さと、それを(ほど)く難度の高さを彼に告げていた。顔を(しか)め、他人には分からぬほど小さく溜息(ためいき)()く。  そして、不意の(わな)自動人形(オートマタ)の出現を警戒(けいかい)していた一行のリーダーで智廉国からの学者たちの護衛(ごえい)の一人でもある雷騎公国の正騎士アレン・グランベルに、状況を静かに報告した。 「グランベル(きょう)。あれの呪いの本質はまだ読み(ほど)けていませんが、像自体が呪いの力を発しているのは確かです。この魔法陣がそれを増幅(ぞうふく)し、広範囲に拡散しています。このまま放っておけば、増幅効果が乗算(じょうざん)されていき、ますます影響範囲が拡大するでしょう」  今でさえその影響は遺跡内にとどまらず近隣の村々へと届いていた。呪いの影響で村人たちは苦しみ、命を落とす者さえ出ている。専門家(リオ・カルス)の発言は、雷騎公国全体にこの致命的(ちめいてき)な呪いが広がることを意味していた。 「では、どうする?カルス殿(どの)」 「まずは増幅の魔法陣を解除する必要があります。その次に魔導遺物の像の呪いを解明し、封印(ふういん)(ほどこ)します。グランベル卿、私たちがあれに近づけるように、魔法陣を入れた範囲までの封印結界(ふういんけっかい)をお願いできますか」 「承知(しょうち)した」  リオ・カルスの依頼にアレン・グランベルは応じて(うなづ)くと、ふっと短く息を()く。彼は自分以外の一行が魔法陣の側から十分に離れたのを確認し、腰に下げた聖剣の(つか)をぐっと(にぎ)()めた。

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