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第2話

誓言(せいげん)する」  聖剣をゆっくりと引き抜きながら発せられたそのひと声は、静寂(しじま)(ふる)わせるほどの重みと荘厳(そうごん)さを宿(やど)し、(はる)かな天上へ吸い込まれていくかのように響いた。  聖霊魔法(アレン・グランベル)の、その力ある(ことば)呼応(こおう)するように聖剣の剣身からは(やわ)らかな光が()れ出し、次第にその輝きで周囲の闇を静かに押し返していく。  彼が奉納剣舞(ほうのうけんぶ)舞手(まいて)のように剣先で美しい円を(えが)けば、剣身の(はな)(あわ)い光がそのすぐ後を追う。  そのまま流麗(りゅうれい)所作(しょさ)(つか)逆手(さかて)に持ち、もう片手を柄頭(つかがしら)()えると、敬虔(けいけん)なる騎士は、柄を支える両手を神への祈りの高さまで(かか)げ、大地へと光る剣先を向けてぴたり静止した。 「光輝(こうき)たる神よ、我が名を、我が(つるぎ)を、我が力を(ささ)げる」  祈りの言葉がひとつ(つむ)がれるたび、光は脈動(みゃくどう)するように力を増し、剣身を中心に波紋(はもん)のように広がり、周囲の闇を後退(こうたい)させていく。 「聖なる光よ、(さや)かなる(みちび)きを(たま)わり、その御名(みな)のもとに――」  一拍(いっぱく)置き、アレン・グランベルは更に剣へと魔力を込める。少しの()るぎもない剣身から(あふ)れる光は、もはや穏やかさを()え、まばゆい閃光(せんこう)となって空間全体を照らし、その輝きは闇の隅々(すみずみ)まで浸透(しんとう)して影をも消し去った。 「闇を()き、(きよ)きを保たん」  満ちていた光は、まるで意志を持つかのように誓言騎士(アレン・グランベル)の身体と剣を中心にして急速に収束していく。 「我が(つるぎ)に光()れ!秩序(ちつじょ)在れ!」  やがて舞い戻った暗闇(くらやみ)の中、全ての光を()い込んだ彼の全身は神聖(しんせい)な光に満たされ、暗赤色(あんせきしょく)の髪も、深緑(しんりょく)の瞳も全て白金(しろがね)色に輝き、剣を地に向け(かか)げ持つ雄々(おお)しい姿は、神の威光(いこう)そのものであった。 「聖霊(せいれい)(さや)かなる御手(みて)宿(やど)りし聖灯(せいとう)燭光(しょっこう)により――この(さかい)を封じん!」  結実(けつじつ)(ことば)(はっ)すと同時に、騎士は勢い良く固い大地に聖剣を突き刺した。剣先が乾酪(チーズ)小刀(ナイフ)(すべ)らせるかのようにするりと(しず)むや、そこから地を割るように光が鮮烈(せんれつ)軌跡(きせき)を描きながら一直線に魔導遺物(まどういぶつ)の像へ走り抜ける。そして閃光(せんこう)が呪いの像に到達した瞬間、像を中心とした巨大な円形(サークル)の光の(かべ)が立ち(のぼ)った。  呪いの赤黒い霧は、(きよ)らかな光の内に閉じ込められ、増幅(ぞうふく)魔法陣(まほうじん)まで(ふく)む大きな封印結界(ふういんけっかい)が完成した。呪いそのものが異界(いかい)へと遮断(しゃだん)され、封印結界を解かない限りは何も外に漏れることはなくなった。  さらに、結界が放つ聖光(せいこう)により内側が徐々に浄化(じょうか)されていく。しかし、元凶(げんきょう)である呪いの像と魔法陣の存在する中心部では、赤黒い霧がなおも(うず)巻き、その色を濃くしていた。  一方で、外側では霧が晴れるように薄れていき、その効果を()の当たりにした智廉国の学者たちは驚きに声を失っていた。 「この大きさの封印結界を、本当に、一人で……」 「それどころか、古代遺跡の外にもあれだけ影響を出していた呪いを、完全に遮断しているようだ」 「この場も(すで)に浄化されてしまった」 「公王家の宝剣を借り受けてとは言え……」  興奮気味に話す学者たちの声が静寂(せいじゃく)(やぶ)る。  結界を依頼したリオ・カルスも呆気にとられたように目を見開いていたが、薄く燐光(りんこう)(まと)ったまま微動(びどう)だにしないアレン・グランベルの姿に、すぐに(われ)に返った。 「これから、増幅の魔法陣を解除いたします」

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