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37 緊急ニュース

 筋肉痛が治るまでに数日を要した。  やっと身体の軋みが取れて出かけようとしたところ、ひどい雨模様だった。昨日まで雲ひとつない空が続いていたというのに。  雨が降ると気温はいよいよ低くなる。  森に冬が訪れ、このごろは暖炉に火を入れる日も増えた。  ぱちぱちと薪が爆ぜる音はとても風情がある。  暖炉の火が揺れると飾枠の影が踊り、きれいだ。  この屋敷はジェードが昔の好みで建てたものらしいが、暮らせば暮らすほど彼のこだわりが見つかる。  いつもの席で食卓を挟んで座り、昼食をとる。  ジェードは夕食だけでなく、朝や昼も付き合ってくれることが増えた。  いつも同じ時間に食事を作るようにしていたら、呼ばずとも食堂へ来てくれるようになっていた。  作らなくても彼は構わないんだろうなと感じるものの、食事の間はゆっくり会話ができるから、二人分の準備を苦に思ったことはない。  ちぃちぃと鳴き声がして、窓のほうを見やる。小鳥が二羽、窓枠で羽を休めていた。  魔王と勇者、うまくやってるかな。 「……ベクトルドに身体を許しただろう」 「ぶほっ」  オムレツを飲み込み損ねてむせる。  魔王ベクトルドが屋敷に来ていたことも、俺が身体を貸したことも、普通にバレてたんだ。  ていうかその言い方イヤだな。 「褒めていたよ。清らかで居心地の良い器だったと。──それと、勇者とのこともすべて聞いた」  ぜんぶ話したんかい。  そうだよな、ベクトルドとジェードは親友だから、隠し事するより機を見てぜんぶ話すわな。  勇者リオンが味方だと確信したから話したのかもしれない。ジェードはむやみに信頼するのを反対するだろうし。 「バウたちに襲われたことにせよ、私に捕食されることにせよ、おまえが自分の扱いに腹を立てるところを見たことがない」 「それって褒めてくれてる?」 「搾取する側からすればおまえほど都合の良い存在はないだろうな」  ジェードが静かにフォークを置いた。  じっ……と、こっちを見つめてくる。あ、これ、機嫌が悪いときの顔だ。 「……怒ってる?」 「出来事に対しておまえ自身が納得してしまっているから、私は何も言えん」  否定しないのは肯定と同じだ。はっきり言わないだけで怒ってますよ、ということ。  かつてないほど淡々と話す姿から、感情を抑えていることがよく伝わってくる。  ……なんで俺のことでジェードが怒るんだ。  エサの自覚をもって、血に関して迷惑がかかることにはちゃんと気を付けている。  今回のことだって、ベクトルドもリオンも喜んでたんだから良いじゃないか。 「ベクトルドに身体を貸したこと、軽率だったのは認めるけど、俺も文字を読めるようにしてもらえたし、結果オーライっていうか」 「なぜおまえはそう……自分を──」  言いかけて、ジェードが黙った。何かの気配を察知したようで、そちらに意識を集中させたのだ。  彼が玄関の方を向くのと、玄関扉が勢いよく開く音がするのはほぼ同時だった。 「ジェード!」  バウの声が聞こえた。切羽詰まったような大声だ。 「聞いたか!? 勇者が死んだ!」

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