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第1話 突然のデート

「……電気街口って……こっちだよなあ……」  秋葉原電気街南口を出た所、アトレの前で待ち合わせと言われていた|二階堂《にかいどう》|郁《いく》は、なんとも所在ない気分になっていた。  さっきまで乗っていた山手線の社内が暑かったのに比べて、今は、身が震えるほど寒い。三月半ばだというのに、十一度しかないらしかったので、余計に、心細くなる。  アトレと言えばJR東日本の子会社が運営する駅ビル直結テナントだ。新宿近辺が拠点の郁は、あまり利用したことがないが、出張で新幹線を使うとき、品川のアトレはよく使う。普通の駅ビルというイメージのはずだが、秋葉原は土地柄のせいか、外側に面した窓は、全てアニメかゲームのキャラクターが全面に描かれている。  SNSゲームくらいは多少やったことがあるが、のめり込むほどやらなかった郁にとっては、なんとなく、この巨大サブカルの聖地は、居づらい感じがする。  珍しく、|煌也《こうや》が『ちょっとデートしない?』と言ってきたので、一も二もなくOKしたのだが……。 「煌也って、……意外にアニメとか好きなのかな……?」  煌也―――一ノ瀬煌也とは、知り合って数ヶ月。  お互いのことは、殆ど知らない。  郁が、付き合っていた女性から婚約破棄され、その足で迷い込んでしまったのが、秘密のハプニング・バーだった。  表向きは、普通のカフェ。ある『合い言葉』を言うと、ハプニング・バーに通される。  男性オンリーのハプニング・バー『ブルー・ムーン』。  郁と、煌也はそこで出会った。  実を言うと郁は、婚約破棄された女性から、自分から求めたこともない、と言われるくらいには、性的な欲求が希薄だった。  けれど、煌也と知り合って、彼と、ハプニング・バーで過ごしていくうちに、快楽の虜になった。  今では、毎日、アナル・オナニーは欠かさないし、ほぼ毎週金曜日は、ブルー・ムーンの店内で、煌也と一晩中セックスして、始発近い電車で帰宅するという充実した生活を送っている。今週は、郁の都合が合わなかったので、煌也と逢っていなかった。だから、身体が、物足りない感じになっている。 (まあ、ようは、煌也とは身体の相性が最高で、ついでに、俺も、女性とするより男とする方がセックスが好みだったって言うだけだけど……)  煌也との関係性は、彼氏、というわけではなく、ただのプレイメイトだ。  それでいいと思っている。  だから、お互いの家に行き来したこともないし、二人で、ラブホに入ったこともない。セックスを楽しむのは、ブルー・ムーンの中でだけ。郁は、それで満足して居たので、今回、煌也に誘われたのは意外だった。  しかも、今日は、土曜日。  現在時刻、十五時。 (アキバ……で、何するつもりだろう……)  首をかしげながら待っていると、「郁!」と声が掛けられた。  振り返ると、煌也の姿があった。長身なので、人混みの中でも目立つ。それに、華やかな容姿だった。二次元のキャラを見慣れているであろう、この街の女の子達が、煌也をチラチラ見ているのが解る。 「待った?」 「ううん、待ってないよ。それにしても、珍しいよね、アキバって。なにか、用事あるの? メイドカフェとかだと、ちょっと俺は付き合いたくないよ……?」  郁の言葉に、煌也が小さく吹き出した。 「買い物をして、ちょっと、お茶か食事でもしてから、ブルー・ムーンに行くのはどうかなと思って」 「良いね。……で、どんなお店に行くの……?」  煌也が耳元に囁いてくる。 「アダルトショップ」 「えっ?」  思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった。 「ア、アダルト……」 「使ったことあるでしょ。郁も、好きだろうし……どうせだったら、現物を、一緒に選んだら楽しいかなと思って。で、それを今日使ってみようよ」  どくん、と胸が跳ねた。 (今から……二人で選んだ、オモチャで……今日、虐めて貰えるんだ……)  外の冷たい空気が気にならないくらい、頬が熱くなってきた。 「俺も、行ったことはないんだよね。だから……品揃えは解らないけど、ちょっと楽しそうじゃない?」  煌也が楽しそうに笑っている。  郁は「うん……」と言いながら、興奮してくるのを、隠せずにいた……。

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