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第2話 アダルトショップでお買い物
電気街南口とアダルトショップは目と鼻の先だった。
「ここね。これ、ビル全部、アダルトショップだから」
と煌也が示した店は、大通りに面していた。あまりにも、オープンな店だったので、驚いてしまう。
入り口から中が見えないような工夫はされているモノの、明るい雰囲気で入りやすい。実際、目の前を歩いていた普通のカップルが、入って行くのを目撃した。
「……フツーに、カップルで入るんですね」
「まあ、そういうカップルもいるよ。……そのカップルごとにフツーなんか違うだろうけど」
煌也の言葉に、なんとなく、郁はホッとしていた。
これが『フツー』だと言われると、郁は困る。婚約までしていた恋人と、こういう店に入ったことはなかったし、道具も使ったことはなかった。すべての人が、こういうアダルトグッズに興味があるわけではないだろうが、少なくとも、今までの郁は、相手のことを全く考えたことはなかった。
「煌也はさ……俺に使って欲しいグッズとかあるの?」
すくなくとも、こういう所に連れてくるのだし、以前は『宿題』と称して、郁に、アダルトグッズを三つ持ってくるように言いつけたこともあった。
「んー……そうだなあ、大体、俺の場合は、郁が気持ち良くなってくれれば、なんでも良いんだけど……郁が、どんなのに興味があるか、だけは気になるかな。
あと、拡張系とか、コスプレはあんまり好きじゃないって言うだけで」
「ふうん……?」
コスプレは、まあまあ、珍しくない趣味のような気もするが、どうやら苦手らしい。
「ああ、でも、いやらしい下着とかは、大好きだよ」
くすくす、と煌也が笑う。
「下着……」
「そうそう。……今、いろんな下着があるからねぇ……」
煌也があからさまに、にやにやと笑っているので、なんとなく郁は恥ずかしくなる。きっと、煌也は、郁にいやらしい下着を着せた所を想像しているのだ。
「下着は……今日は、やだよ」
「ま、あとのお楽しみにしておくよ」
店に入ろうとした時、前方から来た、アニメショップ帰りらしい女性二人が、チラッと煌也と郁を見る。
(男同士で入るの……あからさますぎるかな……)
恥ずかしくなって、顔が熱い。
「あー、気にするな。大抵の腐女子は、BLで慣れてる」
さらっと言う煌也の言葉に「えっ?」と郁は声を上げてしまう。
「BL……って?」
「ボーイズ・ラブ。男の子同士の恋愛メインの少女マンガ」
「えっ? なんで、女の子が、そう言うの見るの……?」
「まあ、そういうドラマとかもあるし、アニメとかコミックとかも沢山あるから、あとで、検索してみると良いよ」
「煌也、なんか、詳しいね……?」
「まあ、俺の好みとしては、ガチムチな感じより、郁みたいなタイプだから、ゲイ向けのマンガよりBLの方が読みやすいし、わりと、エッチシーンもちゃんと書いてるしな……」
「そ、そうなんだ……」
「……ああ、じゃあ、あとで、BLのCD貸すよ」
「別に良いんだけど……。俺は、煌也にしか興味ないし……」
煌也がとたんに嬉しそうな顔をした。
「それは良いね。可愛いことを言ってくれたお礼に、今日は、なんでもして上げるよ」
「煌也が、いろいろしたいんじゃないの……?」
郁は、期待しながら、煌也を詰るように言う。
「いいや? 俺は、郁の言いなりだよ」
髪に、チュッとキスを落とされた。
「ちょっ……人前で……っ」
「ま、大丈夫でしょ」
笑いながら、店内へ入っていく。一階は、さすがに通りから直で入ることが出来るため、あまり、過激な商品は置いていなかった。
薄暗い店内を想像していたが、店内はとても明るい。
「二階に行こうか」
さすがに、二階になると、色々なモノが販売されている。
「オナホとか、あ、エネマとかもあるね」
女性の裸がパッケージに描かれたグッズは、オナニー用の道具だ。ドラックストアに行けば、もっとスタイリッシュなデザインのオナニー用の道具を購入することが出来るが、ここにあるのは、リアルな女性器の形状を目指したような商品だった。
「……エネマって何?」
煌也に聞くと、一瞬、煌也は真顔になってから郁に言う。
「前立腺を刺激する為の道具。……バイブみたいに、入れて使うよ。……こっちのヤツとかだと、ナカで動いたりするし、まあ、ナカでイきやすくなる感じ」
ナカを刺激される感触を思い出して、郁は、ドキっとした。興味は、ある……が、興味があるとは言いづらい。店員の視線……が、こちらに向いているとは思わないが、なんとなく、それも気になる。
「電動と……電動じゃないのがあるし、サイズもいろいろあるよ? 郁、この間のバイブとかアナルビーズは、細かったでしょ。だから、物足りないんじゃない? これなら、セルフでも使えるし……」
煌也が親切に教えてくれる。
そのおかげで、郁は、色々なことを妄想してしまって、興奮していた。
(こんな所で、興奮するなんて……)
とは思うものの、太いモノでナカを思い切り抉られたらどうなるんだろう……とか。電動のオモチャに、良い所だけをピンポイントに刺激されたらどうなるんだろうと、思ってしまう。
「これは、興味ないなら、別の階にいこうか?」
ことさら優しく、煌也が聞いてくる。
「……っ、その……これ、興味、ある……よ」
恥ずかしくてたまらないのに、快楽は欲しい――――。
「どれが良い? 太いの? 細いの?」
「そ……その……、煌也の、おっきい、から……太いの、がいい」
「うんうん。じゃ、電動が良い? それとも、電動じゃないヤツ?」
「その……電動が……いい、です……」
「そうだよね、好き勝手に、ナカ、ぐちゃぐちゃにされたいよね、郁は」
くすっと煌也が耳元で笑う。
「っ……っ」
否定出来なくて、思わず俯いていると「はい、じゃあ、これ。俺がお金出すから、郁、買ってきて」と、エネマグラタイプの電動プラグを手渡されてしまった。
「……ただ、会計してくるだけだから、いいよね?」
「う、うん……」
恥ずかしいと思いながら、郁は、レジへと、ふらふらと歩き出した……。
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