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第3話 郁の初めてなら、なんでも欲しい

 レジには、年若い男性店員がいた。郁より若く見えるので、大学生のアルバイトのようにも見える。だが、恥ずかしいことに、変わりはない。  ただ、商品を持ってレジに行くだけなのに、心臓が、ドキドキして、顔が熱い。 「これ……お願いします……」 「はい、えーと、四千円ですね。プレゼントですか?」 「えっ、えっ……いや、プレゼントではないですっ!!」  思わず声を上げてしまってから、はた、と気が付いた。  プレゼントならば、自分では使わないが、そうでなければ自分が使うということではないか。  顔が熱くなる。 「はい、ありがとうございました」  店員は、挙動不審になる客など慣れているのだろう。平然と対応して、商品とお釣りを渡してきた。  冷静に考えれば、店で売っている商品を購入しただけなのだ―――。  気にしなければ良いはずなのに、過剰に気になってしまう。  店員が、変な目で見ていないか、自意識が過剰になりすぎている。  煌也の元に戻ったとき、「よく出来ました。郁、顔が真っ赤だよ」と笑われた。 「だって……こんなの、初めて買うんだし……」 「うん、いいね。郁の初めてなら、なんでも欲しい」  煌也の言葉に、身体の芯が熱くなっていく。 (……ダメだって……)  興奮するわけにはいかない、と思っているのに、早く、煌也に触れたくて溜まらなくなってしまう。 「じゃ、次の階に行こうね」  煌也がエレベーターを呼ぶ。荷室に入った時、煌也がこめかみにキスをしながら、甘く問う。 「……郁、もう、興奮しちゃった?」  ドキッと郁の胸が跳ねた。心臓の鼓動が、早くなる。息が、上がるような感じがして、口が、ぱくぱくと動いたが声にはならなかった。 「興奮したんだ。……じゃ、早く選んでね。次は、三つだよ」 「三つ!?」  思わず、声を上げてしまった。 「この間、三つだったでしょ。それで、物足りないのかなと思ったからね。……一つ増やしただけだよ。さ、着いたよ」  次のフロアには、バイブレーターや、ディルド、ローター、アナルグッズが所狭しと並んでいた。 「す、すご……」 「ここがメインフロアっぽいね……上は下着とコスプレみたいだし」  右を見ても、左を見てもリアルな男性器を模した、ディルドやバイブレータがあって、目のやり場に困る。 「好きなモノ、何でも選んでね」 「といわれても……」  郁には、殆ど、アダルトグッズの知識が無い。最近になって、少し使うようになってきたから、ローターとアナルビーズ、バイブレーターを覚えたくらいだ。 「……そう言えば、前、お店で、胸を攻めるヤツがあるって、一緒にしてくれた人が言ってたような……」  郁と煌也がプレイを楽しむ、ブルー・ムーンは、ハプニング・バーなので、煌也とのカップルプレイの間に、第三者が入ってくることがある。3Pのような形になったことはないが、煌也と同時に胸を攻められたことがある。その人が、言っていたのだった。 「ふうん? ……まあ、確かに、郁、胸好きだもんね……?」  好きか、嫌いかと言われれば、胸の突起を攻められるのは、好きなのだが……、こういう所で言われると、恥ずかしくなる。ましてや、今から、そこを攻めてもらう為の道具を選ぶとなると……。 「……煌也は……本当にリクエストないの?」 「まあ、それはおいおい。見た目にも、エロいのが良いなとは思うよ。郁も、その方が興奮するでしょ」  くすくすと煌也が笑う。  郁は、とにかく、早くグッズを三つ選んでしまおうと思った。 (こういうディルド系……ってどうなんだろ)  とは思ったが、前に、『俺はね、他人棒で、郁が気持ち良くなってるのは、あんまり見たくないの』と言っていたのを思いだした。であれば、リアルな形状のディルドは、好まないかも知れない。 「じゃあ、まず……これ……」  適当に選んだのは、前に買ったものよりも、質量がありそうなバイブレーターだ。すぐに、煌也も気付いたらしい。 「……へぇ、前のより大きいね」 「煌也のおっきいから、……家でアナルオナニーするとき、普通のバイブだと、物足りない……から」 「これ、奥まで入れたいんだ」  耳元に、甘い声が聞こえて、くらくらした。 「うん……。奥まで、入れてみたい……よ?」 「じゃあ、これにしようか。……さっきのエネマグラタイプのといい、バイブといい、郁は、ナカ好きだね」 「こんな風に仕込んだの、煌也でしょ」  ぷい、とを背けると、煌也が笑う。 「違うよ。最初から、郁が、こういうことに素質があったんだよ。俺は手伝いだけ」  煌也は一貫してその主張を崩さない。 「……じゃあ、次は……これ……胸のヤツ」  胸に貼り付けるタイプのローターで、貼り付けた所にアタッチメントが何個か附属しているようだった。  振動したり、ブラシのような突起でさわさわと刺激されたり、するのだろう。想像しただけで、ゾクゾクしてきた。 「女の子だったら上手く吸い付きそうだけど……、郁なら、固定すれば大丈夫かな。じゃあ、それね」 「うん……あとは……」  何が良いだろう。  拘束する為の道具や、ムチのようなモノもあったが、あまり、そういうプレイはしたくない。 (まあ……縛られるのは良いけど……、本気に縄で縛られたりは……あんまり興味は無いかなあ……)  いわゆる『亀甲縛り』がすぐに再現出来るような道具や、低温蝋燭など、様々な品がある。その先に、アナルパールやアナルプラグ、浣腸プレイの道具などがおいてあった。このあたりに来ると、今まであっけらかんとしていたパッケージデザインが、とたんにおどろおどろしくなってくる。  肌色やピンクなどが多かったバイブレーターに対して、紫や黒、それか金属で出来たものなどが多くなる。  本来、生殖器でない、アナルでのセックスには、まだ、どこか背徳めいた感情があるのだろう。 「あっ」  金属プラグのコーナーに、面白いモノがあった。  形としてはただの金属プラグだったが、その先に、フサフサが付いている。狐の尻尾のようなフサフサだった。 「なに……これ?」  プラグは使ったことがある。週に何度か、一時間か二時間くらい入れたままで生活することもあった。だから、こういうフサフサが付いていては、さぞかし邪魔だろうと思ったのだった。 「何見てるの? 郁」  後ろから声を掛けられて、ドキッとしつつ、郁は、そのフサフサ付きのプラグを示した。

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