3 / 5
第3話 郁の初めてなら、なんでも欲しい
レジには、年若い男性店員がいた。郁より若く見えるので、大学生のアルバイトのようにも見える。だが、恥ずかしいことに、変わりはない。
ただ、商品を持ってレジに行くだけなのに、心臓が、ドキドキして、顔が熱い。
「これ……お願いします……」
「はい、えーと、四千円ですね。プレゼントですか?」
「えっ、えっ……いや、プレゼントではないですっ!!」
思わず声を上げてしまってから、はた、と気が付いた。
プレゼントならば、自分では使わないが、そうでなければ自分が使うということではないか。
顔が熱くなる。
「はい、ありがとうございました」
店員は、挙動不審になる客など慣れているのだろう。平然と対応して、商品とお釣りを渡してきた。
冷静に考えれば、店で売っている商品を購入しただけなのだ―――。
気にしなければ良いはずなのに、過剰に気になってしまう。
店員が、変な目で見ていないか、自意識が過剰になりすぎている。
煌也の元に戻ったとき、「よく出来ました。郁、顔が真っ赤だよ」と笑われた。
「だって……こんなの、初めて買うんだし……」
「うん、いいね。郁の初めてなら、なんでも欲しい」
煌也の言葉に、身体の芯が熱くなっていく。
(……ダメだって……)
興奮するわけにはいかない、と思っているのに、早く、煌也に触れたくて溜まらなくなってしまう。
「じゃ、次の階に行こうね」
煌也がエレベーターを呼ぶ。荷室に入った時、煌也がこめかみにキスをしながら、甘く問う。
「……郁、もう、興奮しちゃった?」
ドキッと郁の胸が跳ねた。心臓の鼓動が、早くなる。息が、上がるような感じがして、口が、ぱくぱくと動いたが声にはならなかった。
「興奮したんだ。……じゃ、早く選んでね。次は、三つだよ」
「三つ!?」
思わず、声を上げてしまった。
「この間、三つだったでしょ。それで、物足りないのかなと思ったからね。……一つ増やしただけだよ。さ、着いたよ」
次のフロアには、バイブレーターや、ディルド、ローター、アナルグッズが所狭しと並んでいた。
「す、すご……」
「ここがメインフロアっぽいね……上は下着とコスプレみたいだし」
右を見ても、左を見てもリアルな男性器を模した、ディルドやバイブレータがあって、目のやり場に困る。
「好きなモノ、何でも選んでね」
「といわれても……」
郁には、殆ど、アダルトグッズの知識が無い。最近になって、少し使うようになってきたから、ローターとアナルビーズ、バイブレーターを覚えたくらいだ。
「……そう言えば、前、お店で、胸を攻めるヤツがあるって、一緒にしてくれた人が言ってたような……」
郁と煌也がプレイを楽しむ、ブルー・ムーンは、ハプニング・バーなので、煌也とのカップルプレイの間に、第三者が入ってくることがある。3Pのような形になったことはないが、煌也と同時に胸を攻められたことがある。その人が、言っていたのだった。
「ふうん? ……まあ、確かに、郁、胸好きだもんね……?」
好きか、嫌いかと言われれば、胸の突起を攻められるのは、好きなのだが……、こういう所で言われると、恥ずかしくなる。ましてや、今から、そこを攻めてもらう為の道具を選ぶとなると……。
「……煌也は……本当にリクエストないの?」
「まあ、それはおいおい。見た目にも、エロいのが良いなとは思うよ。郁も、その方が興奮するでしょ」
くすくすと煌也が笑う。
郁は、とにかく、早くグッズを三つ選んでしまおうと思った。
(こういうディルド系……ってどうなんだろ)
とは思ったが、前に、『俺はね、他人棒で、郁が気持ち良くなってるのは、あんまり見たくないの』と言っていたのを思いだした。であれば、リアルな形状のディルドは、好まないかも知れない。
「じゃあ、まず……これ……」
適当に選んだのは、前に買ったものよりも、質量がありそうなバイブレーターだ。すぐに、煌也も気付いたらしい。
「……へぇ、前のより大きいね」
「煌也のおっきいから、……家でアナルオナニーするとき、普通のバイブだと、物足りない……から」
「これ、奥まで入れたいんだ」
耳元に、甘い声が聞こえて、くらくらした。
「うん……。奥まで、入れてみたい……よ?」
「じゃあ、これにしようか。……さっきのエネマグラタイプのといい、バイブといい、郁は、ナカ好きだね」
「こんな風に仕込んだの、煌也でしょ」
ぷい、とを背けると、煌也が笑う。
「違うよ。最初から、郁が、こういうことに素質があったんだよ。俺は手伝いだけ」
煌也は一貫してその主張を崩さない。
「……じゃあ、次は……これ……胸のヤツ」
胸に貼り付けるタイプのローターで、貼り付けた所にアタッチメントが何個か附属しているようだった。
振動したり、ブラシのような突起でさわさわと刺激されたり、するのだろう。想像しただけで、ゾクゾクしてきた。
「女の子だったら上手く吸い付きそうだけど……、郁なら、固定すれば大丈夫かな。じゃあ、それね」
「うん……あとは……」
何が良いだろう。
拘束する為の道具や、ムチのようなモノもあったが、あまり、そういうプレイはしたくない。
(まあ……縛られるのは良いけど……、本気に縄で縛られたりは……あんまり興味は無いかなあ……)
いわゆる『亀甲縛り』がすぐに再現出来るような道具や、低温蝋燭など、様々な品がある。その先に、アナルパールやアナルプラグ、浣腸プレイの道具などがおいてあった。このあたりに来ると、今まであっけらかんとしていたパッケージデザインが、とたんにおどろおどろしくなってくる。
肌色やピンクなどが多かったバイブレーターに対して、紫や黒、それか金属で出来たものなどが多くなる。
本来、生殖器でない、アナルでのセックスには、まだ、どこか背徳めいた感情があるのだろう。
「あっ」
金属プラグのコーナーに、面白いモノがあった。
形としてはただの金属プラグだったが、その先に、フサフサが付いている。狐の尻尾のようなフサフサだった。
「なに……これ?」
プラグは使ったことがある。週に何度か、一時間か二時間くらい入れたままで生活することもあった。だから、こういうフサフサが付いていては、さぞかし邪魔だろうと思ったのだった。
「何見てるの? 郁」
後ろから声を掛けられて、ドキッとしつつ、郁は、そのフサフサ付きのプラグを示した。
ともだちにシェアしよう!