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第4話 ギャラリーは多い方が良い・・

 フサフサ付きのプラグを見た煌也が、「ふうん」と呟く。口許が、楽しそうに歪んでいた。 「これ……邪魔じゃないのかなとか思って」 「……そうだな。邪魔かどうか、買って確かめてみると良いよ」  たしかに、今回は、気になったグッズを使ってみるという趣旨なのだから、試して見れば良いのだ。気軽に。 「そっか。じゃあ、もう一つは……これにする」 「うん。じゃ、また、買ってきて」  煌也に、そう言われるのを覚悟していたので、先ほどより、恥ずかしさはなかったが、やはり恥ずかしさはある。できるだけ、店員の方を見ないようにして、そそくさとレジで会計を済ませた。 「買ってきたよ」  煌也の元に戻ると、「うん、じゃあ、そろそろ、食事でも行こうか」と煌也が郁を誘う。 「うん……あの、出来たら、できるだけ早く……ブルー・ムーンに行きたい」  郁の言葉を聞いた、煌也が笑う。 「待ちきれない?」 「だって……」 「まっ、確かにそうだね……。俺も、いち早く、郁の可愛い姿は見たいけど……」と一度言葉を切って、郁の耳元に甘く囁く。「ギャラリー、多い方が、良いんじゃない? 郁は」 「えっ……っ」 「郁、見られてる方が気持ち良くなっちゃうでしょ。見られるの、好きだもんね……今日は土曜日だから、まだ、お客さん、少ないんじゃないかな」  煌也に言われて、恥ずかしくなる。耳まで熱くなってきた。 「……ギャラリーって……」 「郁のこと、見たくて来てる人も居るんじゃないかな……? 郁、可愛いからね。皆、見られて気持ち良くなってる郁に、精液を掛けたり……、後ろに入れたくなったりしてるはずだよ」  確かに、ギャラリーたちが、自分の性器をしごきながら見学しているのは知っている。  それを見た郁は、確かに、満足していた。  郁の痴態を見ながら、興奮している男たちがいる―――それだけで、満足出来る。 「俺の見学したい人なんか、居ないだろ……」  居て欲しいような気もする。これは歪んだ承認欲求なのだろうかと、なんとなく思う。 「ま、せっかくだから、可愛い郁を、沢山の人に見せびらかしたいな。俺は」 「見せびらかしたい……って」 「だって……郁は可愛いからね。俺以外、こんなに郁を可愛く出来ないって……見せつけておきたいんだよ」  なんとなく、独占感の滲む言葉に、思わず郁は苦笑する。 (恋人でもないのに……)  郁も、煌也と恋人になるということが、よく解らない。こうして、出掛けたり、たまには食事に行ったりということはある。ただ、プレイだけは、必ずブルー・ムーンでする。郁の家は手狭だが、ブルー・ムーンのある新宿からは、割合近い。煌也の家は、目黒だと聞いた。ならば、お互いの家を行き来しても良いはずだが、それはない。東新宿エリアは、あちこちにラブホがある。でが、ラブホで過ごしたこともない。  そこだけは、煌也は、線を引いているように思えた。  煌也なりに何か、考えがあるのだろう。 『ただのプレイメイト』である郁を、自分の本当の生活スペースに入れたくないと言うことなのかも知れないが、聞いたことはないし―――なんとなく、答えを知りたくなかった。 (今のままで、構わないし……)  郁は、「俺が見て貰うのが好きなんじゃなくて、煌也が、見せるのが好きなんだろ」と言って、エレベーターを呼んだ。  秋葉原の雰囲気は、なんとなく苦手だということになって、新宿まで出ることにした。  総武線で移動すれば、新宿までは乗り換えなしで移動出来るし、山手線よりも早い。ブルー・ムーンがあるのは、東新宿のほうなので、少し歩く必要はあるが、途中で食事をするし、時間稼ぎなら丁度良い。  土曜日の新宿駅は、いつも通りに混雑していた。  大きなスーツケースを抱えている人たちも多い。 「郁、何、食べる?」  東口の広場に出て、煌也が問う。ここからならば、なんでも食べることは出来るだろう。ありとあらゆるモノが溢れている街だ。 「んー……」  ある程度腹は減っている気がするが、食べ過ぎると、良くないし、匂いがするようなモノは食べたくない……。 「煌也は、何か食べたいのある?」 「そうだなあ……、郁と一緒に食べるなら、なんでも良いんだけどね。あっ、そうだ」  煌也が、にやっと笑った。 「なに?」 「ね。前に話ししたでしょ? ……郁に生クリーム付けて、舐めたいって」  耳元に直接囁かれたが、それでも、公衆の面前だ。 「ちょっ!!!」 「ダメ?」  顔が熱い。 「……いい、けど……。生クリームなんて……ケーキでも買うつもり……?」 「それでも良いし……。缶入りの生クリームくらい、百貨店で買えるだろ」 「缶入り?」 「そうそう。整髪剤のムースみたいに、泡立てた状態で出てくる生クリームがあるんだよ」 「……なんか、詳しいね」 「まあ、ちょっとしたお菓子くらいなら作るからな」 「えっ? 意外……」  たしかに、煌也は、料理は上手そうだ。パスタくらい、さらっと作りそうな感じがある。 「ちょっと、食べてみたいな」  思わず口に出してしまって、口許を手で覆った。 「べ、べつに……煌也の家に行きたいとか、思ってないからな! ……かといって、料理スタジオを借りて欲しい言う意味でもないから……」  訳の分からない言い訳をする郁を見て、煌也が、目を瞬かせていた。

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