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第3話
フフ……
吐息が額を撫でる。
長い睫毛がゆっくりと開いた。
「ご油断召されましたね」
フフフ……
「解放はして差し上げられませんよ」
風が流れた。
不意の突風が右目に落ちた髪をかき上げた。
空へ。
(眼……)
そこにある筈の闇色の宝石を覆う、黒い眼帯。
「おっと、失礼致しました。醜い顔をお見せしてしまいましたね」
「醜いだなんて!全然そんな事ありません!寧ろカッコいいです。美形です!」
「これは、これは。お褒めのお言葉、有難く頂戴致します」
「なななァーッ」
俺、なに言ってるんだ。よりによって。
「おや、少し顔が赤いようですが?ヒイロ様」
とっ、とにかく何か話題を変えないと。
「ま、街中でその呼び方は」
「ご安心下さい。波動結界を張っております。結界の効果により、音の波である声も遮断します。周囲にヒイロ様のお名前は聞こえませんので、騒ぎになる事はございません」
「そっか」
街の人には、何年か振りのパレードをたくさん楽しんでほしい。
ほっ。
(良かった)
……なんて事はない!
「おや?如何なさいましたか」
「この状況なんですが」
「はい?」
「あの……腕」
俺の体、彼の腕の中に囚われたままだ。
「フフフ、貴方様はやはりお可愛らしい」
「なっ!そうじゃなくって」
「ヒイロ様はお可愛らしいですよ。ジタバタもがいても、私の腕の中から逃れられぬ籠の中の鳥。麗しく非力な小鳥を、どこに愛でぬ者がおりましょう」
この執事さん、ちょっと変。
「俺は勇者です!」
「存じております」
「なので!」
「お可愛らしゅうございます」
「可愛くありません!」
「離しませんよ」
ハァハァハァ
話が全然、噛み合わない。
「訂正致しましょう」
執事さんから思いもよらぬ提案が……
(話、奇跡的に噛み合った?)
「私を離さないで下さい」
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