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第4話

「えエェェエー」  なに言って? 「私をぎゅっと抱きしめて」 「ヒャアァァーッ」  地面がない。  足、宙に浮いて…… 「改めて、ご忠言申し上げます。私を離さないで下さい。この高さから落ちれば、勇者様といえども死は免れません」  街が遥か眼下に落ちていく。  そうじゃない。 (俺が)  俺達が上昇しているんだ。白い雲に向かって。  もうパレードの旗が棚引く音も聞こえない。  風が体を取り巻いて、綿飴みたいな雲に手を伸ばせば届きそう。  人が……豆粒のようだ…… 「如何に貴方様が麗しき小鳥であっても、飛ぶ事はできませんので」  バサッ  羽音が蒼穹を渡った。 (執事さんの背中)  まるで太陽を覆い尽くさんかのような……  大きなコウモリの羽が生えている。 「おっと、失礼を。驚かせてしまいましたね。こちらは最近、実用化されました新魔法でございます」 「魔法の翼?」 「はい。《高貴なる翼=エーデルフリューゲル》を詠唱破棄で使用しました。勇者様の魔王討伐までに開発が間に合わず、申し訳ない事でございます。しかし魔法も日進月歩。研鑽を積み、進化しているのでございます」 「すごい」  王都を離れている間に、こんな事が。 「王都の人達は皆、空飛んでるの?」 「残念ながら、この魔法は調整が難しく、王都で使えるのは私一人でございます」  執事さんだけが使える魔法 《エーデルフリューゲル》  空を翔ける翼  人が大空を自由に飛ぶ。  ずっとずっと、太古の昔から人類が憧れていた夢。  鋼鉄の翼で、俺の元いた世界の人は空を飛んだ。  そして、この世界の人々も…… (すごいよ)  夢を可能にした魔法も、人々の努力も、それを操る執事さんも。 (……待って) 「如何なさいましたか」  王都で……  いや恐らくこの世界で、唯一人。 《エーデルフリューゲル》  この魔法を使える執事さん。 「私の顔に何か付いておりますでしょうか?」 (どうしてなんだ?)  この人は、執事さん…… 「おっと、暴れないで下さいね。このような足元の不確かな場所で手を離しては、命の保障は致しかねます」  ぎゅう  更に深く、力強く、腕の中に抱きしめられてしまう。 「二度は言いません。落ちたら死にますよ」 「けれどあなたはっ」  見上げた視線の先に闇色の玲瓏が絡んだ。 「美しい目をしておられます。真っ直ぐで気高く、聡明な輝きをお持ちでございます」  隻眼をすぅっと細めた。 「《エーデルフリューゲル》を使えるのは王都で……否、世界中で私一人。 なぜ、そのような高位魔法が私に使えるのか?それも詠唱破棄という高度技術、且つ高難度の発動にて……」  王立魔導隊の宮廷魔導師ではなく…… 「たかだか執事に」

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