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第6話
艶美な声色がヴェルベットローズのように耳朶を包んだ。
……反射的に見上げてしまった。
抗えない糸に手繰り寄せられるかのように。
刹那
白と黒が反転する。
隻眼の瞳孔が白に。
瞳を囲んでいた白が黒に。
人間の目とは反対の配置の色。
(しまった)
とられた。
僅か数秒。
しかし見つめたその数秒は、
(魔法を仕掛ける時間としては充分)
長い睫毛をゆっくり伏せる。
次に開く時。
(魅了、それとも洗脳)
どちらかが発動する。
身動きできない。すでに精神魔法に囚われている。
「……私の顔に何か付いておりますでしょうか?」
「え、はい?」
「誠に申し訳ございません。身だしなみの不手際をお詫び申し上げます」
心底すまなさそうに隻眼を細めた。
(あれ?)
パチパチパチン
ちゃんと瞬きできる。自分の意思で。
小さく身じろぎしたら、すぐ彼の腕がぎゅうっと痛くない力で抱きしめてきたけど。
(指先、動いた)
彼に見つからないように少しだけ、人差し指を曲げて伸ばしてみた。
ちゃんと動く。
指も、腕も、体も。
指先まで、つま先まで、自分の身体だ。
魅了にも洗脳にもかかってない。俺、魔法にかけられていない。
目の色も元に戻ってる。
隻眼は、人間の目と同じ配置の白目と黒目だ。
光が眩しい。
翼の向こうに太陽を背負う。見上げた瞬間に差した陽光のせいで、俺の目が色彩判定を誤作動したのだろうか。
「失礼ながらヒイロ様、私めの顔のどこに何が付いているのか、教えて頂けませんでしょうか。直ちに身だしなみを整えますので」
揺らいだ闇色の玲瓏が覗き込んだ。
どうしよう?
あなたの目を見つめて、時を忘れていました……なんて言えない。
俺、どうすれば……
「言えないような物が付いているのでしょうか」
不安に揺れた闇色の宝玉の瞳が迫る。
(あわわ、近い〜!)
ドキドキドキドキ
このままじゃ、俺の心臓が超新星爆発を起こしてしまう☆
えぇい!こうなったら腹を据えるぞ。
(ほんとの事)
言うぞー!
「執事さんの顔はきれいです!」
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