14 / 172

第14話

 とわのあい……  せせらぎの水面(みなも)のように、瞳が陽光を反射する。  きれいな黒だ。  ひらり、ひらりと輝いて…… 「どうかお受け取り下さい」  瞳がゆっくり降りてくる。 「誓いの口づけを」 (えっ)  バサリ  背中の羽が風に羽ばたいた。  キス……されちゃ……  チュ♥ 「………………ぅ?」  おでこがあったかい。  温もりは一瞬で、すぐに離れてしまったけれど。 「跪いてヒイロ様のお手を取り、額に掲げた後、手の甲に口づけを落とすのが本来の慣わしですが、ここは空の上。習わし通りに致しますと、大切なヒイロ様を落っことしてしまいますので、ご容赦を」 「……はい」 「これで『ふぁーすときす』とやらも、お守りできましたでしょうか?」 (もしかして執事さん)  それで額に? 「決してヒイロ様に危害は加えませんので、ご安心下さい」  この人、俺が考えいる以上に優しい人なのかも…… 「ぼーっとしておいでですね。何かご不安な点がおありですか」 「いえ、そんな訳では」 「良かった」  頭上で小さな息をついたのを感じた。  この人は本当に俺が傷つくのを心配しているんだ。 「それでは、アルファングへ戻りましょう。馬車は王都郊外に駐留しております。陸路の移動では半月はかかりますので、私が赴いた次第でございます」  そうだった。話が色んな方向に飛んで忘れてしまっていたけど、執事さんはアルファングの使者だった。 「主様、私にしっかり掴まって下さい。少し飛ばします」  伸ばした手を執事さんの首元にまわす。  自然と体が密着する。 (俺、こんなきれいな人とキスした)  額だけど、キスはキス (キス、されたんだ……) 「はい、素直に言う事を聞いて下さり、嬉しい限りでございます。私を離さないで下さいね。お出来になりますね、主様」  ドキンドキン  今頃、胸が熱くなる。 (どうしよう)  キスの後でそんなふうに言われたら、別の意味に聞こえてしまう。 (執事さんは、空の上で危ないから離さないでと言ってるだけなのに)  それなのに……  ぎゅ。 「離そうとなされても、私が離しませんよ」  フフ……  微笑みは羽音がかき消した。

ともだちにシェアしよう!