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第17話

「ほんの一瞬で構いません。主様、お目を閉じて下さい。このままではドライアイになってしまいます」 「……」 「困りましたね。私の声が聞こえないのでしょうか」 「……」 「パッチリお目々、可愛らしいですよ。麗しく可愛い御方よ、私の言う事を聞いて下さい。ねぇ、主様」  フゥ……  ビクンッ  端の掠れた声が耳朶を這って、熱い吐息がくすぐった。 「耳が赤くなりましたね。僅かながら反応も見られました。良い兆候です。もう一度試してみましょう。……主様、フーぅ」  耳の襞、狙いすましたかのように吐息を吹きかける。  ビクビクンッ 「あぁ、なんとお可愛らしい。私の腕の中で、もがくように打ち震えながら小刻みに体を震わせて……主様だというのに、禁断の嗜虐心まで煽られる。素晴らしい反応です。……私、ただの雄に成り果ててしまいそうです」  ビクビクビクビクッ 「おっと、失言を。申し訳ございません。さて、主様に仇なす魔力は感じられませんし、なぜ私のお声が届かないのか皆目見当が付きません。何らかの魔力が、主様の感覚を阻害していると考えていたのですが、魔力でないとするならば……」  執事さんは小さく頷き、決意を固める。 「お耳そうじすれば、声が聞こえるようになるかも知れませんね」  エェェーッ、そっちィィー!  声が聞こえないのは、実は勇者たるに相応しい貞操を守るため、聞こえない振りをしているのであって! 「それではお耳、失礼致します。まずは右耳から……」  えっ、ちょっ、なんで?  どうして執事さんの顔が近づいてくるの? 「お伝え遅れ、申し訳ございません。ここは空の上。綿棒を使いましての通常のお耳そうじですと、勇者様を落っことしてしまいます。ゆえに私の舌で、お耳そうじ致します事をご容赦下さい」  エエェェエー!!  そんなの聞いてない。 「真っ赤に熟れたお可愛らしいお耳、失礼致します」  カプっ  チュー  ………………ぷしゅー 「おや?ヒイロ様の額から、何やら水蒸気のようなものが抜けていったような?」  俺、昇天します。 「ヒイロ様ァァー!」

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