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第16話

 遠くで声が聞こえる。 「ヒイロ様、しっかりなさって下さい」  目を閉じていると深く感じる。美形のこの人は低音の声まで美しい。  あぁ、そうだ。この声を紡ぐ唇が触れて、 (キスを……) 「ヒイロ様!」 「ふひ〜」 「可愛らしい囀りですが、お返事もままならぬご様子。突然ぐったりされて、主様は大丈夫でしょうか」  心配かけてごめん。  でも今、目を開けたら心臓が再び超新星爆発を起こす。 (あの美形が至近距離にあるんだ)  目をつぶっていても、吐息の熱を感じる。  もしも今、美形執事さんを間近に映してしまったら、硝子の心臓が大破し、俺はもう生きてはいまい。 「ヒイロ様、私の事は分かりますか?」 「うひ〜」  ごめん、執事さん。  俺、気を失う事にするね。 「良かった。このような状態でありながらも、私の事は認識されているご様子。少し安心致しました」  ため息にも似た小さな安堵の息を吐いた。 「そうですよ、私はヒイロ様の伴侶です」 「ひっ!」 「おや、体がビクッと跳ねましたね。どのような状態になろうとも、夫に抱かれているのが嬉しいのですね。さぁ、もっと抱きしめて差し上げましょう」  ぎゅむ〜! 「うぴィィ〜!」 「お可愛らしい中に、溢れんばかりの気品に満ちたお声。主様はどのようなお姿になられても麗しい」  ほぅっと唇から、熱い吐息が漏れた。 「私、勃起してしまいそうです」  パチンッ! 「おや、ヒイロ様。お目覚めでございますか」  パチンッ 「お声は如何なさいましたか?お話になって宜しいのですよ」  パチンッ 「まばたきなさって宜しいのですよ」  パチンッ 「お目覚めになってから、一向にまばたきなさいませんね」  パチン、パチン、パチンッ! 「??」  パッチーン!!  目を閉じたら最後。貞操の危機である。  絶体絶命。  我が身を守るために、この目は絶対に閉じられない。

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