19 / 172

第19話

「はんこん?」 「死者を蘇生させる秘匿魔術です」  そんな魔法があるんだ。 「でも死者って?」  申し訳なさそうに、彼は隻眼の長い睫毛を伏せた。 「ヒイロ様の心臓は動いておりましたが、反応がありませんでしたもので、おいたわしいお姿になり魂を持っていかれたのかと」  つまりそれは…… 「俺が死んじゃった!と」 「はい。こうなりましたら、アンデットとして蘇らせようと考えました」  つまりそれは〜! 「ゾンビー!!」 「その通りでございます」  それは死者蘇生か!?  なんという不穏極まりない魔法を使おうとしていたんだ、この執事は!!  そして、どうして優雅ににっこり微笑んでいるんだ?? 「ヒイロ様がどのようなお姿になろうとも我が伴侶。アンデットになっても、私の愛は変わりません」  ……愛が重い。 「あの、えぇっと」 「はい」  にっこり。 「ううぅ〜」  愛が重いのは今に始まった事じゃない。  注意したいのだが、かの執事の無垢なる笑顔の前に何も言えなくなってしまう。 「そういう危険な魔法は、ちゃんと意思確認してから……」 「ですが」 「ううぅ〜」  そうだった。声を無視していたのは俺な訳で。 「とにかく!」  しかし言いかけた気持ちは、一瞬にして薙ぎ払われた。  わわ!  刹那の瞬き。  俺の体は堅牢な両腕に包まれていた。 「ヒイロ様がご無事で安心致しました。私は、ヒイロ様の温もりが好きですので」  トクントクン  胸の奥を穿つ規則正しい鼓動が暖かい。 (ちょっとだけ速いかも)  ほんとうに俺の事、心配してくれてたんだ……  暖かな鼓動に、からだ全身を包まれている。  こういうのも悪くない。誰かは誰かに必要とされていて、執事さんは俺を必要としてくれている。だから本気で俺を心配して、今は心から安堵してくれている。  そんなふうに感じる温もりが好き。  俺は執事さんの……  ………………え? (なに言いかけた?俺)  ちがう!そうだ!  俺は執事さんの温もりが好きなのであってー!! 「結婚しましょう」

ともだちにシェアしよう!