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第26話

 奪われてなんかいない。  寧ろ与えられている。  執事さんの肩の上。  俺だけの場所。  今だけ俺専用。 「今だけでなく、ずっとこれからも……」  えっ? 「ヒイロ様のおそばに居られたらと願っております」 (心を読まれたのかと思った)  ビックリしたのは偶然で、でも。 (これからも一緒にいられたら、ここは俺専用の場所になるのかな?)  これからも、ずっと。 「ねぇ、執事さん」 「如何なさいましたか」  伝えていいかな?  少し傾いだ瞳が映す。柔らかな夕日の色が浮かんでいた。 「俺も、あっという間でした」  俺の髪にあてられていた指先が一瞬、ピクリと動いた。 「嬉しいです」  穏やかな微笑みが瞳の漆黒に溶けた。  唇がゆっくり開いて、何かを伝えようとした瞬間。  馬車の車輪が声をかき消した。 「お迎えの時間ですね」  白馬の馬車が止まった。  二頭だての馬車は天井が取り払われたオープンカーのような造りになっている。 「いってらっしゃいませ、勇者様」 「はい」  ……でも、執事さん。 「また会えますよね?」 「もちろんでございます」  フフ、と…… 「私は勇者様の専属バトラーでございます」  闇色の玲瓏に微笑みをたたえた。 「……と同時に、麗しき小鳥。貴方様の伴侶の座を譲る気はございませんよ」  そうだった!キャー☆

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