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第28話

 動けなかった。  目の前で人が死んだというのに、なにも……  短剣が飛んできたのは背後。  俺をすり抜けて、侍従の背中に一撃。気づいた時には、短剣が彼に刺さっていた。  危険だと《直感》が判定する。 (否)  《直感》が危険判定していない。 (どうして?)  王が住まう厳戒態勢の城内で短剣が飛んできたんだぞ。  それを危険判定なしなんて。  《直感》がバグってる?  そんな筈は…… (待て)  《直感》は確かに危険判定を下した。しかし俺が反応する前に短剣が飛んできて、侍従を刺した。  そして現状、危険判定なし。  城内で武器の携帯が許されているのは…… 「下がれ!」  背後から飛んできた声と同時に。 (足、浮いた)  体が宙に浮いている。  うぅん、これは…… 「お姫様抱っこー!!」  本日二回目のお姫様抱っこ。  なぜ一日に二回もお姫様抱っこされてるんだ!?  ま、まさか…… 「スキルに《BL》なんて追加されてないよね?」  ちょっと心配だ。 「びーえる?なんだ、それは?」 「BLっていうのは、国語辞典オープン!」  勇者装備には国語辞典が付いている。 「ボーイズラブの略である」 「ぼ〜いずらぶ?」  あ、この世界にはBLもボーイズラブも、両方言葉が存在しないんだ。  時々、異世界では言葉が通じなくなる。 「えっと、ボーイ。つまり男同士の……」 「話は後だ」  華麗なステップで後方に距離を取った。  俺を腕に抱えた『お姫様抱っこ』のままで。

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