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第55話
ドア寄りの壁側。
色素の薄い栗色の髪の小柄な青年が、礼儀正しく佇んでいる。
(いつの間に?)
まるで気づかなかった。
隣でゼフィルさんも声を上げたって事は、俺だけでなくゼフィルさんも気づいていなかったんだ。
彼の存在に。
魔物って訳ではなさそう。
王宮では訓練のために、わざと魔物を見過ごしていると聞いたが、そういうのではないようだ。
人型の魔物もいるけれど。
危険は感じない。《直感》がそう告げている。
(彼は人間だ)
たぶん。
「いつから?」
「えぇっと……結構前からですね」
全く気配を感じなかったのだが。
「前からって言うと?」
「袋とじオープン!……のあたりです」
「エエエッ!」
それっ
「前も前。かなり前ですよ。ほんとうですか?」
「はい、ファイナルアンサーです」
……いたんだ。
静かに微笑した彼は、ゼフィルさんとのやり取りをしっかり把握している。
「すごいです!気配を完全に消すスキルなんて。隠密か何かですか」
「えっと……これは〜」
「入る時はノックしろと、いつも言っている筈ですが」
「申し訳ございません、侍従長。ノックしたのですが〜」
ハァァとゼフィルさんは、額を抱えて溜め息をついた。
「いつものですか」
「スキルが常時発動するタイプなんですか?」
「いいえ、違います。気配を消すスキルなんて持ってませんよ」
しかし、完全に気配を消していた。
「じゃあ魔法?それともマジックアイテムですか?」
「ハズレですよ、ヒイロ様。勇者様といえども彼の特性の解析は不可能です」
「エエエッ」
想像の遥か上をいく。それほどの逸材なのか。
「そして彼は隠密ではありません。私の部下で侍従です」
「エエエッ」
気配を消せる彼を隠密ではなく、侍従にするなんて。王宮の人事はどうなってるんだ?
「人事に期待しないで下さい。そもそも私が侍従長である事自体おかしいんです」
「アハハ……」
笑うしかない。
「話が逸れました。気配を消す彼の能力についてですが……」
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