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第73話

「君を見たら……」 (俺?) 「危険な旅だったんだろ。命を落とすかも知れない……でも、こうして君は帰って来てくれて、もう一度会えて、もう一度話せて……」 「そんなのっ」  当然だ。……と言いかけて、でも言えなかった。  今更だけど、生きて帰れる保障はなかった訳で……  貰い泣きしている兵士もいる。周りのあちこちで、大の大人が隠しもせずすすり泣く声が聞こえる。  大の大人だって、泣きたい時はあるんだ。 (俺も泣きそう)  出会った頃からは想像もできない。出会ってからもツンデレだから、想像もしなかった。 (いや、ツンはともかくデレは見てない気がする)  誰にも弱みは見せない、気高い貴族であるリッツが、人目もはばからず泣くなんて。  それも、俺のために泣いてくれるなんて…… (俺の事、こんなにも心配してくれてたんだ) 「平民のくせに……って馬鹿にしてたのに」 「黙れ。僕の感情だ。君に否定される謂れはない」 「そうだね」 (どうしよう。ほんとうに俺、泣いてしまう) 「さぁ、君達ここまでにしよう。陛下の御前だ。ピシッと締めようじゃないか」  先輩騎士と思わしき人が、俺とリッツの肩をポンポンと叩いた。  そうだ。もうすぐ、この謁見の間に王様がやって来る。  リッツが先輩騎士さんに一礼し、俺に軽く目配せした。  もしかすると、リッツを引き上げてくれたのは、この先輩騎士さんなのかも。  どれだけリッツが優秀でも、経験がない。彼の若さで王の謁見を取り仕切るのは異例だ。 (先輩騎士さんが口添えを)  そんな気がする。 「……後で時間を作ってくれ。大事な話がある」  何だろう?  すれ違いざま、鼓膜に囁かれた声。  チラリと視線だけを動かしたけれど、それって周りには聞かれちゃまずい事?  だから小声で、俺にしか聞こえないように……  不自然にならないように、小さく頷いた。  リッツが持ち場に戻ると同時に、鐘が鳴った。  居住まいを正して平伏する。  王様入室の合図である。  カラン、カラン、カラン

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