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第131話

 妖艶な唇が、静寂の緊張の覆う広間に言の葉を紡ぐ。 「我が国の提案に許諾して下されば、特使としてこの上なき喜びにございます」 「特使、か……」  フッと息を吐いた。 「国家の代表が自ら足をお運びになられて、恐れ入る」 「代表とはとんでもございません。我が国は人材不足でして、否応なく、政務と軍部の責任者となっているだけでございます。私など国家の小間使いに過ぎません」 「相国殿の辣腕を知らぬ者はおらぬが?」 「所詮は噂。尾ひれが付いてしまったのでしょう」 「それでは噂の相国殿の提案を聞こうか」 「はい」  敬服の姿勢のまま頷く。そうして視線をわずかに上げた。 「ガルディン公国を国家としてお認め頂きたい」  ザワリ  空気がざわめいた。  冷静沈着な近衛兵達ですら、固唾を飲んだのが、ざわめきたつ空気を伝って感じる。  ガルディンは、国として誰も認めていない。  周辺国……人類の国家も。魔王に組する魔族からも。  『都崩れ』と呼ばれているほどだ……

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