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第140話
言葉に、
声に、
視線に、
仮面の下の口許に、
鼓動、
一挙手一投足に、震えが走った。
まるで電流に撃ち抜かれたかのように。
(動く)
戦局が動く。
お兄様が戦局を動かそうとしている。
「ガルディン公国特使・相国イザナイ・エル・クレハ、慎んで陛下のご英断をうかがいま……」
バサリ
黒い装束が翻った。
宙へ
右手を高く掲げる。
その手には、王剣アイスファング
音もなく、ためらいもなく、
迷いなく握られていた。
(投げた……)
兵士さんが、氷の宝剣を。
ためらいなく、たった一瞬、右手が振り上がった刹那。否、その前。右手の指が動いたわずかな筋肉の脈動を見抜いて。
右手に握った氷の魔剣
カランカラン……
抜かれた刀身
鞘が床で跳ねた。
シャンデリアの光を受けて、ギラリと輝きを放つ。
グァザンッ
光が振り下ろされた。
一滴さえ残さず、紅の血すら魔剣の大いなる魔力により凍りつく。
「最初からだ……」
声は穏やかに静寂を破る。
「貴公が現れた時から、こうすると決めていた……」
氷の剣から結晶が散り、キラキラきらめいている。
「英断とは冷酷である」
大理石の白い床に、胴との繋がりを断たれた相国の首が転がった。
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