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第139話

「勇者様」  背後からの声に背中がビクンと跳ねた。 「それ以上はいけません」 「あっ」  踏み出せない。  分かっているのに。足はラインのギリギリまで進んでいた。 「すみません」 「いえ、お気持ちは察します。しかし、陛下とのお約束です」 「分かっています……でもっ!」  俺、みっともない。何を八つ当たりしてるんだ。 「勇者様、陛下は約束を守る御方ですよ」  言葉を聞いた心の中、あたたかい何かが流れた。  すうっと不要な熱が引いていく。 「陛下は守ると決めたものは必ず守り通します。そして」  その目はお兄様の背中を追っている。 「陛下をお守りするのが、我々近衛兵の務めです」  と…… 「この務めは誰にも譲るつもりはありません。どうか勇者様は、陛下とのお約束をお守り下さい。そして、我々を信じて下さい」 「はい」  この線の中に踏み留まる決意をする。  線の外に出る行為は、ここに終結する近衛兵全員の誇りと志を踏みにじる事になるから。 「返事は即答だったな」  長い沈黙の後、お兄様が応えた。

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