138 / 172
第138話
お兄様との会話で分かった。
こんな事を言っちゃいけないんだろうけど、人質はガルディンにとって損失のない人選だ。
例えば有事が起こって……もちろん、お兄様はそんな事しないだろうけど。
(人質全員を皆殺しにしたとしても)
ガルディンに痛手はない。
寧ろ、その方が都合いい者も混じっている。
お兄様の言っていた政治犯のような……
スパイだっているかも知れない。しかしそういう類いの者は、事が起こる前に去るものだ。
交渉は初めからガルディンが有利になるように仕組まれていた。
「『マモンズシャッテン』とは、よく言ったものだ」
「お戯れを。私など、たかだか『都崩れ』にございます」
まさに、翳で糸を引く強欲の化身……
「お兄様が押されている」
戦局を動かそうとしていた筈なのに。
ガルディンを認めれば、魔物の国家を容認したことになる。人類の国全部を敵にして全面戦争が起こるかも知れない。
「私に売国奴になれと?」
「目先の利益ではなく、互いの国民のためを思えば、陛下のご判断が後世に英断との評価を受けましょう」
フィーラ割譲
受け入れられる要求ではない。
割譲すれば、ガルディンを国家として認めたも同然だ。
世界各国がアルファング王国を批難するだろう。
全世界がアルファング王国の敵にまわる。
世界の人々の安寧な暮らしが人質に取られているのだとしても。
火の付いてしまった批判は、鎮火できなくなるのだ。たちまち世界中に延焼するだろう。
しかし要求を飲まなければ、世界恐慌が起こる。
(詰みだ)
何をどうやっても、状況が打破できない。
ともだちにシェアしよう!

