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第138話

 お兄様との会話で分かった。  こんな事を言っちゃいけないんだろうけど、人質はガルディンにとって損失のない人選だ。  例えば有事が起こって……もちろん、お兄様はそんな事しないだろうけど。 (人質全員を皆殺しにしたとしても)  ガルディンに痛手はない。  寧ろ、その方が都合いい者も混じっている。  お兄様の言っていた政治犯のような……  スパイだっているかも知れない。しかしそういう類いの者は、事が起こる前に去るものだ。  交渉は初めからガルディンが有利になるように仕組まれていた。 「『マモンズシャッテン』とは、よく言ったものだ」 「お戯れを。私など、たかだか『都崩れ』にございます」  まさに、翳で糸を引く強欲の化身…… 「お兄様が押されている」  戦局を動かそうとしていた筈なのに。  ガルディンを認めれば、魔物の国家を容認したことになる。人類の国全部を敵にして全面戦争が起こるかも知れない。 「私に売国奴になれと?」 「目先の利益ではなく、互いの国民のためを思えば、陛下のご判断が後世に英断との評価を受けましょう」  フィーラ割譲  受け入れられる要求ではない。  割譲すれば、ガルディンを国家として認めたも同然だ。  世界各国がアルファング王国を批難するだろう。  全世界がアルファング王国の敵にまわる。  世界の人々の安寧な暮らしが人質に取られているのだとしても。  火の付いてしまった批判は、鎮火できなくなるのだ。たちまち世界中に延焼するだろう。  しかし要求を飲まなければ、世界恐慌が起こる。 (詰みだ)  何をどうやっても、状況が打破できない。

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