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第137話

 視線を落とした俺の前、床に引かれた一本のラインがある。  この線から出てはいけない。  そう、お兄様は仰ったけど。 (踏み出す事さえできない)  もしも相国が危害を及ぼすつもりなら、お兄様の言いつけを破って飛び出すつもりでいた。 (でも)  俺じゃ、飛び出したところで何の力にもなれない。 (踏み出す資格すらない) 「最初から、狙いはそこか?」 「何の事でしょう?」  お兄様の問いに、伏せながら悠然と相国答える。その口許には、笑みさえ浮かべているようにも見えた。 「人質千人を提案してきた時からだ」 「疑問点でも?」 「千人の内訳は?」 「人間900人、魔族100人です」 「戦争捕虜か。国で食わせるのが面倒にでもなったか。ていのよい厄介払いだな」 「滅相もない。魔族の中には、上位魔族もおります。有能な者にございます」 「政治犯であろう」 「得体の知れぬ者を人質には致しません。千人は貴国の繁栄のための労働力にお使い下さい」  フッと笑みのない息を吐いた。 「我が国に奴隷制はない」 「奉仕作業にございます」 「内偵も一緒に人質の中に潜ませたか。産業スパイには申し分ない設定だ」 「友好国にそのような無礼は働きませぬ」  音のない火花が散っている。

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