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第136話

「これは……」 「どうしましたか?」  俺の後ろ。  王剣を預かる兵士さんが、グッと眉間に皺を寄せた。 「陛下は試されておられます」  相国の答えの後。  長い沈黙が支配する。  お兄様はまだ答えない。 「……試されているって?」  極めて小さく、囁くような小声で兵士さんに問いかけた。 「公にはされていませんが、ガルディンの金は低く見積もっても、世界市場の六十パーセントを占めています。世界の流通量の半分以上がガルディン産の金です。市場の半分を優に占める金の価格が突如、下落すればどうなるか……」  低く重い息を一つ、兵士さんは吐いた。 「世界恐慌が起こります」 「そんなっ!」 「落ち着いて下さい、勇者様。金の価格の下落は世界経済の大混乱を招きます。陛下は今、大きな岐路に立たされています」  金の価格を吊り上げるも、下落させるも、相国の思い一つ。 (世界が人質に取られている) 「こんな方法って……」 「これが相国のやり方です」  強欲の翳《マモンズシャッテン》……  目的のためには手段を選ばない。 (せっかく平和になったのに)  こんな方法っで人々の平和を脅かす。 「勇者様、これが政治なのです」

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