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第151話

 硬質の剣に生命が宿る。  今だけ、今この瞬間だけ。  鋭き刃が握る相国の右手から、一気に伸びる。  五本の枝が空中で絡み合って、一本の巨大な幹になった。  幹は尚も伸びる。  その鋭利な先端が求めるのは、  ブサリ  相国の心臓  とっさに広げた翼。  背中の翼を前方までまわして、白い羽が体全身を覆っている。  所詮は羽だ。体を覆おうとも、剣を防ぐ事はできない。  剣の幹は、易々と羽を突き刺している。  相国は沈黙する。  沈黙せざるを得まい。よける事はできなかった。受けた剣が深々と突き刺さる。羽では防御にもならない。 「グアァァーッ」 「グォォォーッ」  しかし沈黙を破ったのは、二人の男の悲鳴だった。  亜流魔法の騎士と、物質形成の剣士。  二人が同時に苦しみ出した。 (蛇!)  黒い蛇が這い上り、甲冑を噛み砕いて二人を噛んでいる。 「相国はまだっ」  ピキッ  甲高い金属音の悲鳴が轟く。巨大な剣の幹に亀裂が走った。  ピキピキピキピッ  亀裂が一挙に刀身全体に広がる。  相国は生きている。  仕留めていない。  死力を尽くしたのに、それでもまだ…… 「元より承知だ」 「時間は稼いだぞ」  蛇に噛みつかれて床に倒れたまま、顔を上げた二人の目に希望は消えていない。苦悶の表情で、だがはっきりと二人が声を絞り出した。  叫ぶ。 「「いけェェー!」!」

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